第2話 桜梅 桃
「ももちゃんだよー!」
そんな能天気な返事をされてもあいさつに困る。
すんなり流してしまっているがこいつとこいつの姉貴は苗字が違うらしい。
僕の考えていることがわかったのかすぐに態度を変えた。
「名前なんて形式的なものどうでもいいじゃない」
急にテンション変えんなよ、他の人に話しかけられたのかと思ったじゃないか。
「そうか?」
「僕は結構大事だと思うけどな」
「だって、名前って一度は誰かに愛されないと付けてもらえないものなんだぜ」
なんか気取ったポエマーみたいになってしまって少し照れくさくなってしまった。
本当、衝動的にいろいろ言ってしまうこの性格には困ったもんだ。
そんなことを自分の中で思考して、ふと彼女のほうを見ると彼女の顔が完全に曇っていることに気づいた。
可愛い子の表情はなんてはっきりしているんだ。
なんでかね、やっぱり可愛い子だからこっちがじっくり顔を見ているからそう感じるのか?
「まぁ、私のことはもういいじゃない」
「そんなことよりも問題なのはおにいさんのほうじゃない?」
確かにそうかもしれない、僕には今学校の人間とはあってはいけない理由があったからだ。
よく分からないこの子にかまけていたせいで僕の立場を忘れていた。
「じゃあ、今度はお兄さんの番だね」
「どうしてそんな恰好をしているの?」
彼女はスーツ姿の僕に対して直接的に尋ねてきた。
ここまで来てわざわざ僕自身について詳しく教えるのも恥ずかしいので、手短に済まさせてもらう。
僕の名前は吾妻
ただし、妹以外親類縁者のいない少し変わった男の子でもある。
どうして学生の分際でスーツを着て駅前にいるのか、という疑問は当然なものだと僕はわかっている。
ここから先を説明するためには少し僕の過去を話す必要がある。
両親がいないって言っても僕と妹は別に人造人間っていうわけではない。元々は存在していた。
今はもう亡くなってしまっているだけのことである。
そして僕たちの両親はとある大企業の提携会社の社長副社長をしていた。
提携会社って言っても中小企業ではない、普通に大企業だ。
そのため彼らが亡くなったことにより遺産やら保険金がたくさん僕らに流れてきた。
それは人生を三十回くらい真面目に働かないと手に入れられないような金額であった。
まぁいっても僕と妹は年齢的にはガキには変わりないので、法律上の保護者はもちろんいる。
だから、さすがにまだ高校生でしかない僕は社会のルールにわざわざ抵抗して生きていくようなアヴァンギャルドなじんせいを送るつもりはない。
保護者というのは両親のかつての秘書である七海さんだ。
今では彼女が僕らの母親役である。
いっても僕と十歳しか変わらないけどね。
経済的には全く将来に不安や問題がないけれど、自分を縛るものがないというのはそれはそれで不安というか、生きた心地がしないものだった。
しかし、普通の高校生のように、とりあえずいい大学にいっていいところに就職するみたいな王道ルートに乗る必要性を全く感じなかった。
そう、
だから僕は両親の遺志を継いでかつての両親の会社の再建をしてみようと考えたのだ。
そのための挨拶まわりの帰宅途中に彼女と出会ったしまったところからこの物語ははじまる。
「最悪だよ」
「そんなフェイント避けられる奴いるのかよ」
「だいたいどうしてこんな場所にいるんだよ、ここ市外どころか県外だぞ」
自分のことを棚に上げて白々しく言った。
「だからコスプレだって!」
「そこの喫茶店でバイトしているんだよ」
ほう、なるほど学校の制服じゃないのか。
ていうかこいつも校則違反者か。うちの学校は完全に学業優先でバイトは絶対に許されない。
鳥南は超が付くほどの進学校である。
なんでそんなに高校に僕がいるのかって?
僕はね中学時代、すなわち両親が死ぬまでは優等生だったのだ。
勉強に関しては優等生というか両親に言われたことを幼いころからやっていただけで天才や秀才とかいうのじゃない。
何よりこの当時は勉強しかすることがなかったし、まさか両親がそろって死んでしまうなんて全く考えもしれなかったからね。
それはさておき。
「お互いに教師にばれたらまずいな」
「でも、こっちはわざわざ声をかけたんだよ」
「そもそも学校にばれて本当に困るのはバイトをしている私?」
「それとも平日のこんな遅くにスーツ姿のお兄さん?」
「どっちだと思う?」
こいつ脅しているのか? 女子高生が学校が同じだけの先輩をどうして脅す必要がある?
「それで、何が言いたいんだ?」
少し動揺してあほっぽい返事になってしまった。
「先輩はこれから私の言うことを聞かなくてはならない!」
「あ、お兄さんのことこれから先輩って呼びますね!」
こいつ小悪魔系なのか?
「べつにいいよ、女子高生の願い事くらいいくらでもかなえてあげよう」
「その言葉忘れないからね!」
「じゃあ、せっかくだしいきなりになるけど一つ目のお願いいくね!」
「珠姉と友達になって!」
狂人プレイさく裂しすぎだわ、こういう時のお願いってパフェおごりとかじゃないいのかよ。
こんなマジっぽいお願いこれからもされると思うとマジで泣けてくる。
そしてこいつの行動が本当に読めない。
「お前の姉ちゃん学校で滅茶苦茶人気じゃないかよ」
「僕が干渉する必要があるのか?」
本当に気になったことを言っただけなのに少し怒った風に僕を見つめてきた。
そして少し経つとニコッと笑顔を見せて僕の両手をとった。
「よろしくね!」
「お互い楽しいほうがいいじゃない」
そう言って駅の中にあった喫茶店に細い脚でかけていった。
彼女の脚が細すぎてはいている厚底ブーツがおもりみたいに見えた。
「じゃあ、先輩よろしく頼みましたよ!」
僕のほうへ振り返ってそう言った。
いやいや、僕は全然楽しくないって、絶対に。
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