俺はトレント。匂いに敏感なだけで変態では無い。

@sebasu

第1話

俺はトレント。名前は無い。必要かどうか考えると、要らない気がする。だから自分で名付けることもしない。

特に重要な情報でも無いが、俺は転生者らしい。と言っても、前世の記憶なんて殆んど残って無いから意味無いし。ただせめて動けるモンスに成りたかった。何で植物?誰得のトレントなのか……。


今日も良い天気だ。日光が気持ち良い。そして俺が居るこの森は、臭いに敏感なモンスが多いみたいだ。何故分かるかって?だって明らかに獣っぽいのばっかり見かけるしさ。

まぁ俺が居るのは、入り口だからね。奥の方がどうなってるか、何が居るかなんて分かんないんだけども。だって動けないしね。そんな俺に期待するのが間違っている。


そうだ!昨日は凄い事が判明した。雨が降っててムズムズするなーとか思ってたんだ。んで、思い切って体を『えいやぁ!』と気合入れたら何と!!幹から蔦が生えて自由に動かせたんだぜ!後、根っこも動かせた。何ていうの、地面から根っこが槍みたいに飛び出すヤツが出来る。でも危ないから、先は丸めて拘束する系統の柔らかい感じで行こうと思うんだ。


転生してから結構な日数が経った。最近は顔を出せるように成ったからか、臭いに敏感なトレントだぜ。と言うのもだ、ある日冒険者と思しきヒト達が通りがかったんだ。

あ、そうそう何と!獣人と思われる人種が居たんだぜ!アレは犬か狼だったな。間違いないよ。だって明らかに尻尾をふりふりしてたんだもの。

まぁ話を戻そうか。その冒険者達の中に断然臭う輩が混じってたんだ。俺だって馬鹿じゃ無いんだ。モンスだってバレたら討伐されるかもしんないのに、わざわざアクション起こさないさ。ちゃんと只の木のふりを徹底してたね。


だけど、つい鼻だけ出して臭いを嗅いじゃったね。そして、通り過ぎた後に顔を出してマジマジと見ちゃったさ。獣人の人も何処と無く臭い人から距離を取ってたかんじだしな。

それで俺は愕然としたね。だってそうだろ?思わず出所を探しちゃう様な臭いに拘る変態だったんだぜ?自分が!驚愕し過ぎて、凄く良い匂いの果実を出せる様に成ったよ。それで思ったんだ。前世の俺は、きっと臭いに関係のある職業に就てたか、トラウマでも有るんだってな。変態よりマシだろう。


開き直って果実を食べてみたら、凄く美味しかったよ。食感は林檎っぽい感じで、味は桃ベースのフルーツジュースかな。記憶に無い味わいだけども特徴は捉えている筈だ。あんまり出し過ぎると匂いに釣られて色々寄って来ちゃうかもだから、雨の日限定にしようかな。


転生してから数年は経ったかな?季節が無く常に温暖だから覚えてない。時たま通りかかる冒険者を観察してると、一定の割り合いで臭いのが混じるのが腹立たしい。因みに臭いのに男も女も関係無いぞ!俺は前世では男だったようだが、今はトレントだ。男も女も関係無く言わせて貰う!臭いものは臭いのだ!!そう、上半身まで出せる様に成った喜びが塗り替えられる位にな!


だいたい俺の生えてる位置が悪い。何でもっと奥の方でヒッソリとした場所じゃなかったんだ?よりにもよって森の入り口だぜ?しかも一本道の。森の反対側は川で、橋が架かってる。その橋の出口…でいいのか分からないが、森の一本道の入り口だ。

つまり、川に入らずに森に行くには、絶対に俺の前を通るんだよ。石橋と道の境目付近が俺の住所なんだもの。その内に邪魔だからと伐採され無いか不安になる立ち位置だね。でもこのまま行けば、全身を出せる日も遠く無い筈さ。そうなったら、もっと奥の方に避難しようかな。出来るか分かん無いけど……。


一度、根っこを動かして移動でき無いか試してみたんだ。あれ、根っこの様に見えるけども実際には、魔力と思う力で根っこから生成してるんだわさ。幹から出してる蔓の様なものと同じだね。だから移動でき無い。そこで考えてみた。黙って伐採される位なら、毅然とした態度で抵抗してやるとね。


それからは、暗く成ってからの特訓が日常に加わった。昼間は、魔力関係の練度を上げるだけに留めている。まぁ遠目にみても近目にみても、木から無数の蔓が生えてワサワサ蠢いていたら、明らかに怪しいっしょ?もう討伐まっしぐらだよな?だから暗くなってからのみというのは、妥当な判断じゃなかろうか。


飽きた。え?急に何言うのかだって?いや考えてもみなよ?そりゃ最初は色々楽しかったよ。けど全身出せる様に成ったのが、遠い昔に感じる位の年月がたったんだよ!!そりゃ飽きるでしょうよ。全身出ても、殆んど移動出来ないし。何かここに植わってるのにも飽きたし、昔に比べて人通りも増えた分だけ気になる奴らも増えた。ただ生きてるのも飽きてきたし、段々とイライラしてきたから次に来た奴に思い知らせてやるぞ。


////////////



「よし、見えてきたな。あの橋を渡って森を超えたら魔王国だぜ」

「魔王国って魔物の強さが一段上がるって話だろ?大丈夫かねー」

「ランクBまで上がったんだし大丈夫だって。それに、不安なら慎重に行けば良いさ。魔王国ったって、全部が全部強力な魔物ばっかりじゃ無いんだ。最初は慣らしながら弱めの魔物狩りだな」

「リーダーの言うとうりだぜ。情報収集して準備を整えたら問題ない」

「そうだな。目の前まで来たから、ちょっと弱気になてった。無理そうでも、仲間を増やして対応すれば良いか」


『ボコン。シュルシュル』


「な、何だ!?足に木の根が絡まって」

「ぐお!蔦が…力が強くて解けねー。クソ!」

「何の魔物だちくしょう!!こんな情報無かったぞ!」


////////////



ふふふ。早速、三人の冒険者さんがやって来ましたよ。そして、地中に伏せてあった蔓で素早く縛り上げる。さぁさぁ、早速ですが匂いチェックと行きますか?嫌ですか?でもダメ。トレント容赦しない!縛り上げた冒険者達に近ずいて話しかけた。


「クソ!離しやがれ!俺たちを如何するきだ!?」

『ダメだ!!これから、匂いチェックを始める』

「な…何だと?匂いチェック?俺たちを殺して養分にするんじゃないのか?」


冒険者のリーダーっぽい奴が聞いてくるが、何故そんな物騒な事をしなきゃいけないんだ?


『そんな無駄な事しない。栄養は光合成で足りている。それとも、養分にした方がいいのか?』

「いや、匂いチェックだ!匂いチェックだけにしてくれ」


そうだろうとも。誰しも無駄に死にたくないさ。それに、変な汗が出てるせいで匂いがキツくなってきてるぞ?リーダーさんよー!!

さて誰から行くか…。よし、先ずはムキムキの粗暴そうな奴からだ!蔦を操り大の字に固定して此方に引き寄せる。


「ふん!サッサとしやがれってんだ」

『中々潔いな。……フム。まぁ及第点か。次は、細めのヤサ男だ』

「いやー、お手柔らかに頼むよ」

『判断は公平にする。……ウム。合格だ。さて最後はリーダーお前だ!』


リーダーに向かって、ビシッと指を指して宣言する。だが、結果は既に決まっている。俺は、そっと果実を取り出し準備に入った。


『ふふふ。リーダーよ。お前は嗅ぐまでもない!お前の様な奴はこうしてやる!』


俺は取り出した果実を、大の字にしたリーダーの股間や脇など臭いが強くなり易い部位にグリグリと擦り付けていく。騒ぐリーダーは無視して説教する。


『いいか?体臭の強弱じゃないんだ。清潔にしてるか如何かだ。そして、体臭を消したり誤魔化したりする努力をしなきゃダメだ。集団の中で生きる上でのエチケットだ。それにこの先の森は臭いに敏感な獣が多いらしいじゃないか。気をつけないと、戦闘回数が増えるぞ?お前の所為でだ。そんなのリーダー失格ではないか』


念入りに果実マーキングと説教をした後、使った果実をお土産に解放してあげた。全くリーダーが一番のイケメンなのに残念な事だ。


////////////



「リーダー勘弁してよ」

「グッ。昨日は装備の点検で忙しくてだな……すまん」

「ぷ。今日の事メリザに教えたら何て言うか楽しみだぜ」

「やめてくれ!けど、あいつは俺の匂い嫌いじゃないって…」

「まぁ、これからは気付けたら良いじゃないか。それより、貰った果実食べるの?俺はチョット遠慮したいかなー」

「……捨てたら追いかけて来そうじゃないか?それに剥けば汚くない。大丈夫だ」


////////////



俺が匂いチェックと果実マーキングを開始してから、1年ほどが過ぎた。俺も結構有名になった。中には、果実目当てでワザと強臭して来る冒険者もいる位だ。そういう奴には少し長めに説教する次第だ。全くもって難儀な。そして今、俺は戦闘をしている。女性冒険者には中々受け入れられない試練らしく、戦闘になる事もある。寧ろ戦闘した後にチェックをパスするのは、難しいのだが。協力してくれれば、ある程度の距離からサッと嗅ぐだけなのにな。全く難儀な事だ。


「卑猥な魔物め!必ず倒してやる!」


卑猥な魔物?誰の事だ?俺はトレント。そんな魔物じゃない。魔力をマシンガンの様に飛ばして怯ませ、避けた先の地中に待機させていた蔓で急襲し、足に巻き付け拘束して行く。勝負ありだ。


「止めろ!離せー!!」


ドゥフフ〜。止めない離さない。さぁ、果実の香りを届けに行くよ。


「お待ち下さい精霊様。如何か御怒りを鎮めて下さい」


む?エルフだ。前世の記憶的にエルフだろう…多分。いや、大分と昔の事で記憶も曖昧なんだが、間違ってない筈。てか精霊は何処だ?俺?いや、俺精霊違う。俺はトレント。


『俺はトレント。精霊じゃないぞ』

「いえ。貴方は樹精霊のドリアードです』


そうなのか。始めて知った。男性型はドリアードで女性型はドライアドらしい。よく分からんが、取り敢えず今日からトレント改め精霊のドリーだ。

エルフの姫巫女リーフェとの協議の結果、運動後は汗もかくしチェックしない事にした。


「宜しければ、一緒に来て戴けませんか?」

『…?俺は動けないぞ?』


成る程。植物や木で出来た物に宿る事も可能と。そうやって移動できるのか。なら簡単だな。姫巫女の杖が木製だから宿っておこう。

何でも魔王国の魔王が、結婚してくれと五月蝿いらしい。拒ってもシツコイので、魔王の城に行き衆目の中で苦情を言うそうだ。ふむ、使者でも立てれば良いのに。え?直接断られ無い限り諦め無いと?あっはい。使者は出したのね。そりゃそうか。まぁいい折角だ。魔王の匂いチェックを引き受けようじゃないか。え?そうじゃない?まぁまぁ遠慮するなって。して無い?成る程。まぁ個人的にする分には問題ないな。ははは。


その後暫くして、魔王城から野太い悲鳴が響き渡ったとか。


『この果実食べる?ははは。遠慮するなって、イイから食え!処理に困んだろ』

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