第1話 お題 幼少にして大黒柱の男の子

「われわれの仕事を簡単に説明しますと……」


 天使の笑みを浮かべて出向先の上役・ビッグベンはこう告げた。

 なぜかモザイクが貼ってあって顔が見えないけどな。


「……貸したものは利子つけてちゃんと返してもらえ、に尽きます」


 それから目の奥に悪魔の炎をちらつかせて続けた。

 ヤツは悪魔そのものだから、それぐらい見なくても分かる。


「だから、返してもらうまではくれぐれも手ぶらで戻ってこないように。もしも手ぶらで帰ってきた時は……分かっていますよね、関川フタヒロさん?」


 ビッグベンの凍るような声色に私の背筋に冷たいものが流れる。

 胃腸がキュルキュルと蠢き、ビッグなベンを漏らしそうだ。


 そう。貸したものを返してもらう。

 私の仕事を簡単に説明するならそういうことだ。


 実にシンプルな商売。

 素直に返してくれる相手ばかりなら、こんなに良い仕事はないくらいだ。


 だがもちろんそんな相手ばかりではない。

 それどころか海千山千の猛者……もとい、幾星霜の魑魅魍魎、いや顧客がたくさんいるのだ。


(いつの間にか胃薬とカフェインが手放せなくなったな……)

 ビッグベンのオフィスから退室し、ボリボリと錠剤たちをかみ砕き、1カップのエスプレッソコーヒーで飲み込み、疑似の青い空をにらみつける。


 今日の交渉先はなんと男の子。

 しかも幼い弟妹を抱え、親の面倒まで見ているしっかり者。

 確かにいい子なんだろうけど……それだけに厄介な相手なのだと想像がつく。

 

 かくしてわたしは憂鬱をずるずると引きずりながら、今日も顧客のもとに足を運ぶのだった。


   ☆


~お題ここまで~

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