01
「共に来るのだな、ならばお前の
イスナの鬼火は、左右に揺れて宙を漂う。
まるで応えるかのような様相を認めて、私は深く息を吸った。
そして鬼火を吸い込み、元々自在な形状ゆえにイスナの亡骸の耳から侵入し体内に潜り込む。
…与太話であるが凍土で眠っている年月が長かったせいなのか、己が“
「んっ、んんッ! 声が出しづらい…声帯もやられていたのか。やれやれ、修繕箇所が多いな…。まあ中古だから仕方ないか。ん? 歯が折れている……もが、べっ、ぺっぺっ。これも作り直しだ」
久しぶりの
そうして色々と部位ごとに作り替えながら、やがて最後に「性別」をどうするかで思考が止まった。
「……面倒だな」
長い年月の中で男女両方の性別で生きたこともあるのだが……色々と面倒臭い上に煩わしかったので、今回は性別を顕著に判別できる器官は作らないことにした。
いずれ己自身の魂魄と馴染んで異形と化すが、今後に何があるとも限らないので念の為に強度を上げておくとしよう。
「…心配するな、約束は守るさ」
意図せずして涙が溢れてくるのは、吸収したイスナの“記憶”が泣いているからだろう。
彼女の死を、誰も知らない。
しかし、誰にも報せないのが亡き彼女の“依頼”だ。
「
イスナの依頼を遂行するため、私は“ソラ”として、その日から彼女を「識る」ために、イスナの足跡をたどり始めた。
そして最初に判明したのが、彼女が転居を予定していた事だった。
「…家移りか、なるほど」
(それにしても、転居先のマンションは異様に一室だけ安価で貸し出されているのが気にかかる…)
おい、イスナよ。己の勘がいやな予感を訴えているのだが、その辺りはどうなんだ。
内側に問いかけるが…すっかり吸収された彼女が応答することは、当然ない。
「先が思いやられるな…。しかし、今後のために一人称は“私”にしておくか…」
予め決められている事なので避けようもなく、己…いや、私は翌日の早朝に転居先へと向かう羽目になった。
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