転生して最弱スライムテイマーからスライム聖女と呼ばれるまで

御峰。

第1話 転生

 ベッドに倒れ込む勢いでうつ伏せになる。毎日仕事に追われるようになってから何日が経過したんだっけ…………。


 そんなことはどうでもよくて、せっかく明日から三連休だから美味しいご飯とお酒でゆっくり過ごしたいものね。それよりも旅に行こうかな? どこか見たこともない景色を求めてふらふらっと出かけるのもいいかも知れない。


 気が付けば私は仕事帰りの疲れでそのまま眠りについた。




 ◆




 夢を見た気がした。長い長い夢を。


 そして目を開けると――――あら不思議。知らない天井だ。


 体が少し窮屈に感じて、あまり動けない。


 確か……仕事帰りに疲れてあのまま眠ったことまでは覚えているんだけど……。


 その時、私の視界に巨大な顔が覗き込むのが見える。


 えっ!? 巨人……?


 目を疑って擦ろうと手を伸ばしてみるけど、上手く手が伸びない。さらに足も顔も上手く動かせない。


 私を覗き込んでいた巨人の顔が口を開く。ただ何を言っているのかが分からない。


 今の私って一体何が起きているんだろうか?




 ◆




 一年が経過した。一年。とても長かったようで短い一年だった。


 どうやら今の私は赤ちゃんみたい。


 私を覗き込んでいたのはどうやらお母さんのようで綺麗な金髪と金色の瞳を持ち、よく優しい笑顔を浮かべる人だ。


「ルナ。おはよう~」


 私を呼ぶ声に答えるために声をあげると「あうあう~」と狙いとは違う言葉が出て来る。


 生まれて一歳ともなると意外にも歩けるようになって、最近は家を散歩するのが日課でもある。


 お母さんや世話をしてくれるメイドの話を統合すると、ここは日本ではなくエメラルド王国という国らしい。さらに私はその国の貴族であるお父様の娘で、お母さんはどうやらめかけとのことだ。


 昔の西洋でもそういうことがあると聞いたことがある。


 そんな貴族の家に私は異世界転生を果たしたみたい。


 最初は信じられなかったけど、この世界では魔法を使える人がいて、メイドが水魔法を使って水を生成したので信じざる得なかった。


 それと妾だからか、お父様は殆ど顔を見せない。半年に一回訪れるかどうか。正妻ではないので仕方ないのかも知れない。




 ◆




 さらに二年が経過して三歳になった。


 三歳ともなると人間本来のやれることは大体できるようになった。歩いたり走ったり――――


「おはようございます~おかあさま!」


「おはよう。ルナ」


 お母さんが手を伸ばして私の頭を撫でてくれる。


 もう何年もこの優しい手に癒されてきたけど、まだまだ足りない。前世での私ってそこまでストレスを抱えていたのかと驚くばかりだ。


「おかあさま~! これ読んで~!」


「はいはい。おいで」


 ベッドに横たわるお母さんに絵本を持って寄り添う。暖かい母の体温がとても居心地がいい。


 それからお母さんは身振り手振りや声真似までしながら絵本を読んでくれる。


 どうか、この時間が永遠に続きますように、心の中で祈りを続けた。




 ◆




 さらに二年が経過して五歳になった。


 もっとも変わったことと言えば、お母さんが亡くなったことかな。


 お母さんは元々病弱で、私を産んでからずっとベッドの中で生活を送っていた。私も見た目は子供だけど、中身は立派な成人だから知らないはずがなかった。


 だから私にできることは、ただただお母さんと一分でも長くいられるようにすることだ。


 二歳三歳ともなれば、外に走りたがるはずだけど、私はお母さんが大好きな子供だった。メイドたちも微笑ましく私達を見守ってくれた。


 五歳になる少し前、お母さんは安らかに永遠の眠りについた。


 あの日から三日三晩涙が止まらなくて、メイドたちにも凄く心配かけてしまった。


 泣くなんて久しぶりで、大切な人と別れることって、こんなにも辛いんだね。




 ◆




 さらに二年が経過して七歳となった。


 私は父の意向により令嬢としての習い事を受けることになった。


 まだ赤ちゃんだった頃、メイドたちが言っていた政略結婚の駒として、私は見たこともない年配の人に嫁ぐことになるだろう。


 ふと、お母さんが何度も言っていた「自分が信じた道を歩きなさい」という言葉が頭を過る。


 私はどうして異世界に転生したのかな?




 ◆




 さらに三年が経過して十歳になった。


 相変わらず、屋敷には住まわせてもらえず、街の離れみたいな場所に住んでいて、毎日メイドが来てくれる。


 それもあって夜は一人でただ暗い空を見上げる時間が増えた。


 しかし、それも今日まで。


 今日から何かが変わるはずだ。



 異世界では十歳になった時、【才能】と呼ばれる神様から能力を授けられる。中には【才能なし】も多々いるけど、異世界に来たんだから【才能なし】ということはないと思いたい。


 事前にメイドにお願いして準備してもらった【才能一覧】の本を開いて色んな才能を眺める。


 【勇者】【賢者】【剣聖】【弓聖】【鍛冶師】【狩人】など、前世の知識でも何となく想像できる才能がたくさん書かれていた。


 街の外には魔物という化け物が蔓延はびこっているのでここから逃げる・・・こともできずにいた。もしそういう力を手に入れられたら、ここから逃げたいと思う。


 お母さんが常日頃言ってくれた言葉の通り。



 才能は基本的に教会で神官が【天の恵み】というスキルを十歳以上の人に使って初めて開花する。


 今日は珍しく父と共に教会を訪れた。


 次々と神官によって才能がある者、ない者が分けられていく。


 才能がない者は絶望した顔で、才能がある者は嬉し笑みを浮かべて教会を後にしていく。


 そして、私の番となった。


「汝に女神様の恵みがあらんことを!」


 神官の両手から虹色に輝く光の粒子が私を包み込む。


 体の奥から不思議な力が湧き出るのを感じた。



《才能【スライムテイマー】を獲得しました。》



 頭の中に女性の声が直接響き渡る。これが俗に言う【女神様の声】のようだ。


「汝の才能は――――【スライムテイマー】!」


 すると会場から笑いの声が響き渡る。


 父も目元を抑えているくらい、スライムテイマーという才能は――――ハズレ中のハズレ才能だ。

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