【完結】子犬に転生して好きな人のペットになったら、一緒に配信でバズりまくった件~好きな女の子とお風呂も寝る時も一緒です。この状況に耐えながらも、彼女を幸せにする為ダンジョン配信で活躍します~

むらくも航

第1話 子犬に転生しちゃった

「やばい! やばすぎる……!」


 暗く続く洞窟どうくつのような場所。

 俺たちは息を切らしながら必死に逃げる。


 俺の名前は『犬成いぬなり幸也ゆきや』。

 普通の高校に通う……って、今は数多あまたあるかっこいいところを紹介している場合じゃなさそうだ!


「早く! 走って!」


 一緒に逃げているのは、高校の同級生の女の子。

 訳あって、俺はこの子と『ダンジョン』という場所に潜っていた。


 どうしてこんなことをしてしまったかなあ。

 まあ、理由なんて一つだろうけど。


「そんな! 行き止まり!」

「まじかよ!」


 だけど、ここにきて行く道を防がれてしまった。


「オガアアァァ!!」


 後ろから追ってくるのは『魔物』という恐ろしい生き物。

 今追いかけられているのは、鬼のような顔に強靭きょうじんな肉体を持った魔物だ。

 たしか『オーガ』とか言ったはず。


「どうしよう……!」

鈴花すずか……」


 同級生の女の子は『菊園きくぞの鈴花すずか』。

 黒髪ショートカットの発育の良い美少女だ。


 さっきまでは威勢がよかった彼女も、途端に震えてしまう。

 今の状況に恐怖をしてしまったのかもしれない。


「……」


 拳を強く握り、覚悟を決めて彼女の前に立った。


「俺がおとりになるよ。鈴花はその隙に逃げて」

「ダメだよ!」

「それしか方法がない。鈴花まで死んでしまったら弟はどうするんだ!」

「それは……!」


 鈴花の家庭は貧しい上、中学生の弟がいる。

 だからこそ、彼女は一攫千金いっかくせんきんが狙えるダンジョンに潜っていたのだ。

 それで鈴花まで倒れてしまえば、弟は生きていくことができない。

 

 彼女に付いて来たのは、ただのかっこつけだ。

 俺は幼馴染の彼女のことがずっと好き・・だった。

 好きな女の子を、一人で危険な場所に連れて行けるかっつーの!


「オガアアァァ!」

「「!」」


 オーガは手に持つ大きな斧を振りかぶった。


「鈴花ー!」

「きゃっ!」


 俺は咄嗟とっさに鈴花を突き飛ばす。

 乱暴だけど許してくれ。


 くうを切ったオーガの斧はダンジョンの壁を破壊して、俺と鈴花の間に瓦礫がれきができる。

 幸い、オーガは全てこちら側にいる。


「待って幸也! すぐにそっちに行くから!」

「……」


 向こうから剣で瓦礫を斬りつける音が聞こえる。

 だけどもう、どうにもならないだろう。


 いや、むしろ好都合かもしれない。

 これで鈴花は助かる。


「鈴花、早く行くんだ!」

「でも!」

「心配するなら救援を呼んできてくれ! ダンジョンを脱出してな!」

「……! 絶対に、絶対に生き伸びてね……!」

「任せろ!」


 鈴花が走っていく音が聞こえた。

 これでよかったんだよな。


「オガアアァァ!」

「……!」


 再び斧を振りかぶるオーガ。

 退路を断たれた俺はすでに諦めて、別のことを考えていた。


 結局、鈴花に好きって言えなかったなあ……。

 もし、もう一度会うことがあったら、今度こそ言いたいな。

 って、来世なんてものあるわけないか。


 そう思った時、俺の視界は暗転した。







 ふと気がつき、ゆっくりと目を覚ます。


「ワフ?」


 ここは一体どこだ?

 目の前に広がるのは、薄暗い洞窟の場所。

 近所にこんな場所は……無いよな。

 

 俺どうしてこんなところにいるんだっけ。

 たしか鈴花を助ける為に突き飛ばして……あれ、死んだと思ったんだけどな。


 どうやら生きているらしい。

 よく分からないけど、なんかラッキー!


「ワフッ!」


 心が明るくなった瞬間、走り出したくなる。

 本能的というかなんというか、とにかくあらがえない衝動だ。

 俺は勢いよく駆けだした。


 だけど……モフッ。


「?」


 なんだ今の。

 走り出した時、足が妙にモフっとしたぞ。

 そういえば姿勢が四つんいになってるような……って。


「!?」


 えええええ!?

 なんか足がわんこになってるー!?


 しかも足だけじゃない!

 どこもかしこもモフモフ、モフモフ。

 こんなのまるで子犬じゃないか!


「……ワフ」


 白色のモフモフな体に、肉球がついた手足。

 俺は生前ラノベをよく読んでいたおかげで、ある仮説に至った。


 もしかして俺、子犬に転生してる?


 参ったな、こりゃ。

 あの時ダンジョンで死んで、気が付けば子犬に。

 思ったよりとんでもない事態になったみたいだ。


「ワフゥ」

 

 てか、なんださっきから。

 妙に近くから子犬みたいな声が聞こえる……いや、待てよ。

 俺は嫌な予感がしながら発声しようとする。


「ワフ! ……ワフッ!?」


 やっぱりかー!

 なんとなく気にしない様にしてたけど!

 さっきからワフワフ言ってるの、俺の声だったのかー!

 

 ちょ、ええぇ……。

 どうするかなあ、この状況。


「ワフゥ……」


 えーとそうだな、まずは状況を確かめよう。

 俺は子犬に転生して、この場所は──。


「きゃーーーーー!!」

「!?」


 考え事を始めようとした時、女の子の叫び声が聞こえる。


 というか今の声……まさか!?

 嫌な予感がしながらも、俺は全速力で声の元に向かった。

 

 

 


 駆けつけた先、嫌な予感はやはり当たっていた。

 

「くぅ……!」


 魔物に襲われていたのは、鈴花だ。

 鈴花は武器を片手に、緑色の人型魔物『ゴブリン』と戦っている。

 彼女の髪は伸びているように見える。


 どういうことだ?

 鈴花はあれから助かったのか?

 俺が死んでから転生するまでにかなりの時間が経っているのか?

 分からない!


 思考を巡らせる中、彼女はこちらに気づいた。


新手あらて!?」


 鈴花はなんとかゴブリンを弾き返し、こちらに剣を向ける。

 そりゃそうだ、俺は今は子犬みたいだしな。

 魔物だと思っているのかもしれない。

 

「ワフ! ワフフ!」

「来るなら来なさい!」

「ワフー!」


 彼女を守ってあげたいのに、話せなくて説明が出来ない。

 そんな時、


「グオオオッ!」

「!」


 彼女にゴブリンの小刀が迫る。


 助けなきゃ……!

 そう思った時、俺の体は飛んでいた。


「ワフー!」

「え!?」

「ワフ!?」


 なんだこれ!?

 その場をった瞬間、俺の体は自分で驚くほど速く動き、勢いのままゴブリンを爪でえぐる。


「ワフ」


 そして、すたっと着地。

 振り返ればジャンプした場所ははるか後方。

 

 え、俺こんなに跳んだの!?

 しかもめちゃくちゃ速くなかったか!?


 自分で自分の力に驚いている中で、鈴花も声を上げた。 


「どういうこと!?」


 そうか、彼女目線からすれば「魔物が魔物を攻撃した」ことになる。

 でも、今の一撃で俺が彼女を守ろうとしたのが伝わったはず。


 少なくとも、彼女は俺に剣を向けていない。

 敵か味方か判断しかねているところだろう。


「子犬ちゃん……?」

「ワフ」


 ならば守ろうじゃないか。

 前回はなんとか逃がすことしかできなかったけど、今度は力がある。


「ワフー!(行くぞー!)」


 俺はゴブリンの群れを一掃した。

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