第31話 パンサー戦
「うらあああああ!」
「ナイスガッツだ」
「おう」
あれからさらに何戦かしてみてわかってきた。俺や河原自身だけでなく、剣の技術もまた、戦いの中で成長しているということだ。
これに関しては、スキルレベルではないにしても、努力でなんとかなる部分もあるということだろう。
そしてもう一つは、溺愛の権能は魅了とは少し違そうだということだ。
これは、相手の状態が見た目からしかわからないため推測だが、俺に惑わされているというよりも、もっと親密なためらいな感じなのだ。見とれているとかとは別の反応な気がしている。
今だってそうだ。パンサーが人に見とれるなんておかしな話だろう。それに、魅了されているのなら叩こうとはしないはずだからな。
「連戦か。すまない。接近が思ったより速かった」
「いや、大丈夫だ」
「しかし、先ほどからあのパンサーは何をしているのだ?」
「うーん。わからん」
パンサー。ヒョウのようでヒョウではない魔物らしいが、猫っぽい動きで俺たちを翻弄? している。
似ているものとしたら、子猫が初めて見たおもちゃに遭遇し、当たるか当たらないかのところで前足を振っているような状態だ。
それがかれこれヒットアンドアウェイのように数回繰り返されていた。
しかし、サイズがサイズ。大きさとしてはライオンサイズ。
攻撃を直接くらったわけではないのだが、相手の動きが速いせいで、俺では攻撃できずにいた。かといって、俺の実力的には倒せるからとエルディーも様子見を続けていた。
「フェイントを続けて攻撃してこないとは、さすがに死の山にいる魔物らしくなってきたが」
「警戒はしつつも少しは遊びが入ってるんじゃない? わからないけど、そんな気がする」
「確かにユキの言うとおりかもな。やつらの遊びは狩りだ。そうなると、きっと私たちは獲物と思われているのだろう。パンサーは狩った後の獲物で転がしたり、くわえて空に向けて投げたりするのだ。だが、私はこれまでこのような動きをするパンサーなど見たことがない。初めてだ」
「……そっか。少し可愛いと思ったんだけどな」
河原がエルディーの発言にちょっとショックを受けている。
いかん、河原の方がパンサーのペットっぽさに魅了されかけている。
これは、さっさと決着をつけなくては。
「やむを得ん。ここは私が」
「いや、俺がやる」
「待て、力がついたとはいえ、今のリュウヤがパンサーの一撃をくらうのは危険だぞ」
「わかってるさ」
さすがに鎧やら何やらの防具は素材が足りなかったらしく、ティシュラさんに間に合わせを作ってもらうことはできなかった。
タイミング悪く走り出して、パンチの素振りを頭に受ければ、俺の首は無くなるだろう。
そうなれば俺は死ぬ。
だが、
「エルディーも言ってたじゃないか。ここで死ぬようじゃエディカを助けるのは無理だって」
「そうだが……死に急ぐな」
「大丈夫だ。これは俺のおごりでも油断でもない」
はっきりと使い方がわかったわけではないが、勝手な発動以外の方法も溺愛の権能での中に含まれているはず。
それを把握するにはパンサーと戦う必要がある。
戦闘で強化されたせいか、弱すぎる相手は意図せずに脱力し始めている。
こうなると、力を試すにはギリギリを狙わなくてはならない。
俺が近づくとパンサーは遊びをやめ、警戒の色が少し出てきた。
遊びのような動きをやめ、じっと見つめてくる。まるで、敵かどうかを見極めるように。
それは野生の目だ。
俺はまっすぐにその目見つめ返し、一瞬のスキを見て即座に首を切り落とした。
「すごいな。ここまで短期間で腕を上げるとは思っていなかった。相手が動く前に倒すなんて」
「いや、教えられたことをやっているだけだよ」
「私としてはそこまで個々の魔物との戦い方は教えていないはずだがな。しかし、教える前に答えにたどり着く。素晴らしい成長度合いだ」
「褒めすぎだよ」
「……ニーちゃん」
「河原?」
「ううん。なんでもない!」
手を振って否定しているが明らかに気落ちしていた。
それに名前のようなものを呼んでいたし、飼い猫でも思い出したのだろうか。
なんだか悪いことをしたな。
「魔族としてパンサーと遭遇したらバシィたちみたいに仲良くできるさ」
「うん。そうだよね。でも、大丈夫だから」
「そうか? 無理するなよ」
「大丈夫だって。こうして心配してくれてるんだし」
「おう」
「そうそう! 愛は気持ち! リュウヤもだいぶ相手に届ける愛を操れるようになってきたみたいだね!」
「……ん? それは、パンサーに対してか?」
「うん。あ、えっとー。ユキちゃんかなー?」
どうして言い直した?
「フェイラ、何かを話してないな?」
「それは、そのー。愛はわたしの一部と言うか。察知できると言うか……」
微妙にかみ合わないセリフを言うフェイラに迫ると、フェイラは目を泳がせた。
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