第30話 ゴブリン退治だ

「えい! やったやった」

「だいぶ上達したな。ユキ」

「ありがとう。エルディーさんのおかげだよ」

「いやいやユキの実力だ。むっ、フェイラ様、そちらからにいる魔物の相手をお願いします」

「任せて!」


 河原やフェイラの戦闘を見て思ったが、かつてテレビで見た、人を襲う動物の映像より、どこか魔物の動きがにぶいように思える。

 さすがに戦闘慣れしていない俺がプロボクサーのように動きがゆっくりに見えるということはないだろうし、そんなスキルも持っていないだろうから、俺は仮説を立てた。


 俺の仮説としては、溺愛の権能の力なのではないか。ということだ。

 意思のあるエルディーや魔王であるデューチャでさえもは敵対せずむしろ友好的に接してくれる。

 逆に、意思のない、もしくは薄い魔物相手では好意程にはならず、攻撃に迷いを生み、動きをにぶくする程度なのではないかと。


 ここまで数戦戦ってきたが、どいつもこいつもエルディーの助力なく、動きを見てから回避し、剣を振れば倒すことができた。

 素人がこんな簡単に生き残れるのなら死の山なんて言われないだろう。そう考えればおかしな仮説ではないと思う。

 そもそも俺で十分ならエルディーを送り込んだり、わざわざ魔王が出張ってきたりしないはずだ。


 まあ、剣を持ったまま動けるようになれていなければムリだったが、そこはさすがに女子の河原もできているのだし、難易度が高いとはみなさないだろう。

 やはり、相手が何かしら弱っていると考えれば、エルディーやデューチャが手を加えていないなら溺愛の権能ということになりそうだ。


 だが、相手の動きをにぶらせるだけでなく、何か攻撃に転じられれば……。

 愛が重いなんて言うが、何かに使えれば……これもそういう概念を理解できないと使えないのか?


「フェイラ様のお手を煩わせてしまい申し訳ありません。ですが、フェイラ様も剣術を扱えた方がいいかと思い」

「ううん。気にしないで。わたしも楽しいから。でも、死の山でも案外大丈夫そうだね?」

「いいえ。本来はもっと危険な場所なのです。今のところ都合がいいほど相手が油断してくれているというか」

「わかった。これ、あれじゃない? エルディーさんが強いから気圧されてるっていうことじゃない?」

「いや、それはないだろうな。私がここに来るまでは私のことなど気にせず真っ向から襲ってきたからな」

「こわー」


 エルディーの言葉が本当なら、やはり、溺愛の権能の範囲内では俺の仮説が通っているということか?」


「リュウヤ」

「何?」

「ゴブリンだ。ここまでで十分、力も高まったはずだ。今のリュウヤなら問題なくやれる相手だ」

「わかった」


 正直、エルディーに言われるまでどこにいるのかにすら気づけない。エルディーの超人的な視力には驚かされる。

 俺としては、指摘され近づいてやっと見えるようになった程度。接近しても、さすがに戦力の見極めはできない。


 しかし、ゴブリンは俺にとって因縁の相手だ。エルディーがいなければ襲われていたかもしれない相手だからな。

 それに、スライムよりは凶暴なのだろうことは、先ほどの発言からでもわかる。


 今回のゴブリンは一体。群れていないということは、やはり魔物ということか。

 ゴブリンも俺に気づいたようで、すでにこちらを見ている。

 俺も十分に近づき、まっすぐにゴブリンを見つめた。


「今だっ!」


 自分でも走り出した理由がわからなかった。

 俺が見つめた瞬間、ゴブリンが警戒をといたように脱力したように見えたからか。

 俺の接近に気づいて、改めて武器を構えようとするが、ゴブリンは手に持つ棍棒を落とした。


「くらえ!」

 斬っ!


 身を守る道具をなくしたゴブリンへの一撃。

 よろよろとしたところにさらに斬撃を加え、ゴブリンにトドメを刺した。


「なんだか手応えが生々しいな」


 相手が初めての人型ということもあったが、体に力が増される感覚が不快感を打ち消している気がする。

 これは倒すことによる免疫なのだろうか。


「しかし、見事だったな。キレイにスキをつく一撃だった。動き出しもまるで相手の動きを読めていたようだ」

「俺がこの山では弱いから油断したんじゃないか?」

「いや、そうではないと思うが」

「そうか?」


 エルディーがこうまで言うなら、やはり溺愛の権能か。

 しかし、もう少し使ったとわかるようにと使えるといいのだが。


「……この山にいるゴブリンという時点で、他の場所では群れずに生きていけるほどの個体だ。相手によって油断するなどという話は聞いたことがないのだが」

「……ふふふ。リュウヤは順調にわたしの力を使えるようになってるみたいでよかった。力は使い慣れてもらわないとね。せめて、わたしの愛に気づけるくらいにはなってもらわないと」


「溝口、すごいね。あたしもエルディーさんに同じだけ教わったはずなのに、溝口はどんどん戦える相手が増えてる」

「河原も同じくらいできてるだろ?」

「見てればわかるよ。あたしより溝口はすごいって」

「ありがとな。けど、身体能力は男女差が……エルディーを前にするとあれだが、一般人なら差があるものだろ?」

「言いたいことはわかるよ。ありがと」

「人には向き不向きがあるからな。今できなくても気にすることはないさ」

「うん。そうだね」


 それに、技術だけなら大差ないのだからな。

 俺もここで止まっていられない。

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