第26話 地上最強の心配事
「人の力を借りないといけないほど、妹は大変なのか?」
すぐに言葉が返ってこない。
妹の話になってから、エルディーは静かになってしまった。
少ししても、返ってくるのはただのうなずきだけ。
俺たちなら妹を救えると言ってくれたが、内容がわからないとどうしようもない。
有名な騎士をやっているとなると、金が必要だからなのだろうか。
金が必要な大変さと言えば病気とかか……?
そうなると、今の俺にできることはない気もするが……。
「どんな状態なんだ?」
「私の妹は奴隷扱いを受けている」
「え、奴隷!?」
マジか。そっちか。
その考えはなかった。
だが、そうだよな。ここは異世界だ。日本じゃない。奴隷制度があってもあり得ない話じゃない。
「奴隷……」
「一応、リュウヤとユキちゃんは知らないかもしれないから説明しておくと、この世界ではまだ奴隷がごく普通のこととなってるんだ」
「そうなのか……」
「なんて言うか衝撃的な話だね」
最高神が溺愛の神様でも奴隷はなくならないのか。
いや、本来こうして神がいる方がイレギュラーなんだ。ここは神の世界じゃなくて人の世界なのだから。
人間の問題は人間が解決しないといけない。
「奴隷は酷い扱いを受けることもあるから、妹が奴隷なんてエルディーちゃんも辛いよね」
「確かに辛いです。けど、言った通り、私の妹はあくまで奴隷扱いですから」
「ってことは、奴隷じゃないのか?」
「ああ。ただ奴隷にされてるなら、私の稼ぎで買えばいいさ。だが、私の妹は奴隷扱いだ。私は、私の国の国王に妹を人質に取られている。私の力に目をつけた王に妹を人質にして働かされているのだ」
エルディーは悔しさをにじませるように強く拳を握っている。
妹に食べさせてやりたい。妹が大切。今までのエルディーの言動はそういうことだったのか。
でも、この世で誰よりも強いエルディーが妹を助けられないのだとしたら、一筋縄ではいかないだろう。
少なくとも力での解決はできないはずだ。
「そんな事情も考えずにバカにして申し訳なかったのだ」
「いや、いい。私が妹のことを大切にしているのは間違いではないのだからな」
「ありがとうなのだ。わらわも力を貸せるやもしれないのだ。詳細を教えてくれなのだ」
「ああ」
どうやら、二人とも仲直りしたらしい。出会った時から仲が悪かった様子だがよかった。
ほっ、と一安心しながら、俺はエルディーが話し出すのを待った。
「私の国では魔石が取れるという話はしたな」
「有名なんだよな?」
「そうだ。しかし、取れるのだが、その採掘の方法が常軌を逸しているんだ。私の国では人を死ぬまで働かせているのだ。ただ、取れればいい、量が多く取れればいいとな。そして、両親はそこで死んだ」
「そんな」
「事実は事実だ。ユキが悲しむ必要はない。それで、両親がいなくなったことで、私は自分の力で妹を育てるため、腕っぷしを鍛えた。しかし、鍛えすぎた。力を見つけられ、妹を知将とは名ばかりの人質とされ、私は国に尽くすことを余儀なくされた」
「そこまでなんて」
「神であるフェイラ様が認識していないのも無理はありません。ただの一刻の出来事ですから。ただ、妹はこのことで奴隷扱いを受ける国王の側近になってしまった。私が妹を大切だと知っている王は、酷い扱いさせまいと、そして反逆すれば妹の命はないと脅して私を戦争兵器にしたがっているのだ」
「人間のこととして聞いていたが、あんまりなのだな」
魔王が引くほどのやり口。
残虐さというのは種族というより個人に根ざしているのかもしれないな。
しかし、力があればこそ、助けれあげられないのはきついよな。
「妹さえっ! 妹さえ自由にさせてあげられればいいんだ。今だって、私は死の山の調査などする必要はなかった。無実のリュウヤたちについて報告する必要もなかった。ああ、エディカ。ただその存在だけが私の今までの支えであり、心配事が。腕だけでは私が反乱を起こすより先に妹が殺される。私だけでは無理だった。私は知名度だけはあるかもしれないが側近も王のシンパ。どこと協力したとしても妹の命は危ない。なあ、どうしたらいい? 私に何ができる? リュウヤ。迷える私に道を示してはくれないか?」
「そうだな」
さらっと、ここを調査に来たと言ったが、もしかしてフェイラの光って外まで届いてたのか?
俺のことに気づいたはずはないだろうし、そう考えるのが自然か。
いや、今はそのことを考えるな。
「まず、救いを求める相手が間違ってるぞ。俺は道を示せるような男じゃない」
「ううん。間違ってないよ。リュウヤがやるかどうかなんだから」
「え? いや、最高神はフェイラだろ?」
「今、エルディーちゃんが助けを求めているのはリュウヤなんだから。ね?」
「はい。その通りです。私はこの件をリュウヤならば解決できると踏んでいます」
「どうして!?」
「どうしてなのかは私自身にもわからない。ここまで死戦をくぐり抜けてきた感と言えばいいか。リュウヤからは常にキーマンの気配がするのだ。だから、そのかたわらで指示を受けていれば、間違いないと思えるのだ」
溺愛の権能が効いていることを直感的に見抜いているってことか。
そりゃ、フェイラに力が残っていない以上、俺がやるかどうかなんだろうけどな。
まあ、確かにずっとエルディーが帰らなければ、疑った国が動き、俺たちもこのままとはいかないだろう。そもそも、エルディーが帰ったとしても外にフェイラがいることがバレているとなればどちらにしろ安全とは言えない。
俺を鍛えてくれた時に言っていたが、今はエルディーがいるからいいが、いなくなり、バシィやフェイラよりも強いやつが来た時に対処できるようになっておかなければならない。
これは、俺たちにも拒否権はなさそうだな。
それに、溺愛の権能が機能するなら、妹を殺させないようにしながら攻略が進められるはずだ。
「わかった。やろう」
「本当か!」
「ああ。いいよなみんな」
「もちろん」
「リュウヤがいいなら」
「わらわも構いませんわ」
「みんな……」
パッと顔を輝かせると、エルディーは俺に向かって走り、強く抱きついてきた。
「ありがとう。本当にありがとう。こればっかりは感謝しても仕切れない」
「感謝は妹のエディカを助けてからにしてくれ」
「ああ。そうだな……」
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