第6話 覚醒
真っ白な世界は気づくと収まり、代わりにどこからともなく現れたピンク髪の美少女が俺に抱きついていた。
「え、は?」
突然の展開すぎて俺や河原だけでなく、オオカミたちすら口をあんぐりと開けて動きを止めている。
俺も正直ついていけていない。
だが、ふんわりと香る匂いや実際に当たる二つの柔らかい感覚で幻覚ではなく現実なのだと認識させられる。
「お待たせリュウヤ。遅くなってごめんね」
「いや、誰」
知り合いのように話しかけられたが、俺から離れて全身が見えても全く見覚えがない。
ピンク色の髪に同じくピンク色の瞳をした現実離れした整った顔立ちの美少女。
背丈は俺より低いが、豊かな双丘を持ち、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。
何故だか河原と同じ制服を着ているが、学校で見た覚えはない。そもそも真っピンクの髪の女の子を見れば覚えているはずだ。
そんな奇抜な髪色だが、召喚直後に見た姫様にも引けを取らない魅力をまとっている。
「ん!」
冷静になろうと観察していると、美少女は有無を言わせず俺の両頬を両手で挟み込むと引き寄せ、そのままくちびるを押し付けてきた。
華奢な印象だが、見た目より力が強い!
なんだこいつ。オオカミの親玉か。
「み、溝口? ねえ、大丈夫? ねえ、溝口!?」
返事ができない。
「あなた一体何者なの?」
返事をしない。
頭を動かせず、声も出せず、バタバタと腕を振るが目の前の美少女は全くブレる様子がない。とにかく俺はされるがままだった。
河原との出来事が霞むほどに柔らかいくちびるを当てられ、美少女はまっすぐに見つめてくる。
意識が飛びそうになる謎の刺激を受けながら、無限にも等しい時間の間、くちびるを重ねあわされた。
「ふう」
何かが終わったのか、やっとのことで解放された。
目の前の美少女は、ほほを上気させ恍惚とした表情を俺に向けてきている。
ダメだ。俺も頭がぽーっとする
いかんいかん。
頬を叩いてから改めて目の前の美少女を見てみる。
だが、やはり同じ制服を着ているが全く知らない顔だ。少なくとも、あの場にいたのは俺と同じクラスのやつらだけだった。一体どこから現れたんだ?
「お前、何者だ? 今までどこにいた? 俺に一体何をした?」
「えーと、一度にたくさん質問されると困っちゃうけど、一つずつ答えるね。わたしはフェイラ。この世界の神様で一番偉い神様。どこにいたかって言うと、神様の世界にいたってことになるのかな? リュウヤにしたことは、キッス。スキルを与えためのね。どうしても直接スキルを与えたくて他の神を止めてたんだけど、その前に誰も与えてなかったんだよね。それが不思議だったんだけど、こういうことだったんだね。わたしの全部吸われちゃった」
「いや、吸ってたのはあんたの方だろ。神様の世界とか言ってどこから出てきたのか知らないが、現状をわかってるのか? 今まさに襲われるところなんだぞ?」
「わかってるよ。間に合ったよね?」
「間に合ったって、確かにまだ命はあるが……」
今まさにやられるギリギリのところを指しているなら間違ってはいない。
確かにまだ生きているし、先ほどの強烈な光は目くらましになったみたいだが、時間が経ちすぎだ。
こんなことしてる間にオオカミたちは正気を取り戻しているだろう。こんなことなら走り出しとけば、まだ寿命は伸びたかもしれない。
今となっては逃げるチャンスを完全に失った。
「ねえ、溝口?」
「すまん河原。お前を逃がしてやれなくて。せめて一人でも助けられればよかったんだが」
「いや、違くて」
「隣の子は気づいてるみたいだね。そもそも今の問題を解決するのに、武力は必要ないんだから。周りを見ればわかるでしょ?」
「は?」
確かに、もうオオカミたちは正気を取り戻し、俺たちを生きたまま襲ってきていてもおかしくなさそうなところだが、いまだにオオカミたちが動いた気配は感じられない。
いつまで経っても襲ってこない。
「え……」
おかしい、そう思ってフェイラとやらの言う通りに周りを見ると、オオカミたちは頭を低く下げた姿勢で地べたに伏せていた。
まるで今までの態度を誤るような申し訳なさそうな顔で見上げてきていた。
「嘘、だろ?」
「これがわたしからあなたに与えたスキル。ううん。私の力を全て奪って行使されるこれは、もはや神の権能に等しい。リュウヤの力は溺愛の権能。相手を心から愛し、相手に心から愛されるそんな力だよ」
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