第13話

自宅の手前に差し掛かり数軒並ぶ家の前を通り過ぎようとした時、誰かが私に声を掛け来た。

紗奈の幼馴染みの笠原だった。

相談したいことがあるのでこれから私の自宅に行ってもいいかと尋ねてきて、両親に一言告げてから一緒に向かい、二十分後家に着くとリビングのテーブル席に彼女を座らせた。


どのような相談かと聞くと彼女は下を俯いたまま無言でいるので、何かあったのかと問うと、隣町に住む高校の男子生徒と付き合っていることを告げ、高校が別々になった分今年に入ってから疎遠になり連絡も取れない状態だと話していた。


「そのことで悩んでいたのか?」

「いつも紗奈に話していたから、あの子がいなくなってから誰にも話せなかった。先生なら聞いてくれるかと思って……」

「それで、笠原はどうしたいんだ?」

「正直気も合わない仲だから別れたい。他に彼女いそうだし。それを話そうと思う。」

「そっちがそうしたいならまた連絡してみたらいいよ。」

「あいつ色々手を出しているみたいでさ」

「女子生徒にか?」

「それもあるみたい。あと、年上の人とも何かにつるんでいるみたいでさ。怖いから早く別れたいんだ」

「そうか……」

「先生」

「何?」

「紗奈の事まだ好き?」

「うん。また近いうち連絡してみて駄目なら警察に聞いてみようかと考えている」

「こういう時に言うのもあれだけど……私もさ、先生の事好きなんだよ。紗奈の代わりになりたいんだ。……どう、かな?」

「好きでいてくれるのは嬉しい。でも、君もこれからの事がある。同い年や年齢が近い人と一緒になる方がいい」

「なんで即決で事を言うの?」

「彼女の代わりになるとかは考え方が甘い証拠だ。厳しいことを言って申し訳ないが、僕も紗奈やその両親の事が気がかりで忙しい。できるだけ捜査依頼も出したいくらいなんだ。」

「そうか……誰も私の事分かってなんかくれないよね?」

「そう考えるな。今から結論を出す必要もない。まだまだ先は長いんだから、親御さんもいつか恩返しができるようになる時が来るから、それまで自分を大事にしなさい。それが先生の願いだよ」

「そう……やっぱり話して正解だった。私色々考えすぎるところあるから、紗奈にもよく突っ込まれていたよ。もう帰ろうかな……」

「それじゃあ送っていくよ。暗いし独りじゃ危ないしさ」

「いいよ。すぐそこだし。こういう時近くて良かった。……じゃあ帰ります。話聞いてくれてありがとう」

「本当に気をつけろよ」


玄関先で彼女を見送りドアが閉まった後私は何か嫌な予感がしていた。先程付き合いのある男子生徒との会話の時に時折不安げに涙ぐむところがあったからだ。


そのわずか十分後だった。私の自宅を出てしばらく笠原が歩いている時、反対車線の道から一台の白い車が彼女の元に止まり、二人の男が中から降りてきて無理矢理彼女の身体や口元をを縛り付けてきて抵抗もできないまま車の後方座席に押し込むように入れて連れ去っていった。

更に三十分後に私の所に一人の二十代の男が訪ねてきて、笠原を知っているかと聞いてきたのでそうだと返答するとこれから一緒に来てくれないかと言い、刃渡り二十センチのナイフを顔の前に差し出してきた。


私は彼の言う通りにしてコートを羽織り自宅を出て、家の前に止まっていたワゴン車に乗せられて二十キロ先の隣町の山林まで走らせると、ある麓の奥地に車が止まり、外に出るように促されしばらく山道を歩いていくと、そこには笠原が話していた二人の十代の男子高校生らしき人物と彼女が待ち構えていた。


笠原は助けを求めたが三人の男たちは嘲笑あざわらいながら私達をぬかるんでいる草地に突き出し、私を取り押さえながらその間に笠原を突き倒して衣服を破り強姦を始めていた。

私は止めようと叫んだが大人しくしていろと告げて背中にナイフを刺す振りをしてきた。


「先生!……嫌だ止めてっ……!」

「うるせえ!この野郎殺すぞ!」


目の前で彼女が淫らにされていくのを見ている自分に苛立ちを抑えてはいられなかった。強姦行為が終わると更にもう一人の男子高校生が我慢ができないからと言い、彼女の身体に再び自分の性器を突いて揺さぶりながら荒い息を立てていた。


「先生、ついでだからあんたもヤるか?」

「馬鹿なことはよせ!おいっ、それ以上彼女を犯すな。やめろーーーっ!」


一人の男は取り押さえていた私の身体を蹴り上げて数回足で踏み潰してきた。男子高校生が行為を終えた時笠原は顔に傷跡が付いていたのを視界に入り、三人の男たちが私達を置き去りにしてその場を離れようとした時、私は背後から頭突きをして振り返りざまに握りこぶしで数回顔を殴った。

その時落ちたナイフを拾い上げて相手の衣服をそれで切り裂くと、身体を二人に取り押さえられて一人が反抗して再び腹や足を蹴ってきて私はその場で崩れて倒れた。


「志帆。思い知ったか?お前なんかに本気で誰も相手なんかしないんだよ。アハハ……」


三人の男は車に乗りこみその場から離れてどこかへ去って行ってしまった。しばらくして辺りが静まり返り、私は笠原の乱れた身体を整えてあげると彼女は私に抱きついてきた。


「先生……私を殺して……」

「変な事を言うな。それより、ここの近くに一軒家があるみたいだから、そこにいって人を呼んでくる。待てるか?」

「うん。早く……戻ってきて……」


すると一台の車がこちらに向かってライトを照らしてきた。中から七十代くらいの男性が出てきて私を見て驚愕していた。


「あんた、そこで何している?」

「すみません、助けてください。知らない男たちに彼女が犯されたんです」

「犯されたって……その子泥まみれじゃないか。それ、あんたがやったことじゃないかい?」

「違います、誤解です。お願いだから警察を呼んでください」

「わ、分かった。ちょっとそこで待ってなさい」


それから三十分ほど待つと、パトカーが二台来て警察官が私と笠原の姿を見て真っ先に私を疑い出し、逃走している隣町の三人の行方を捜査してほしいと伝えた。

まず先に詳しい経緯を聞かせてほしいと言われ山林まで拉致された事情を話したが、警察側は一向に私の犯行だと返答し、その後福江の駐在所に行き事情聴取を受け、笠原の両親が駆けつけると私を責め立てるように叱咤しったしてきた。

更に病院へ向かい負傷した身体の処置を終えてから、私は函館市内の中央警察署へ連行され、取調室にて二時間に渡り聴取を受けた。

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