推し活と友情を混ぜないでください!!

小鳥 遊

推し活と友情を混ぜないでください!!

 あらゆるジャンルのヲタクに告ぐ。


 推しがいるって最高だよね。


「今日もかあいいねえ」


 推しに愛を伝えているときが一番幸せ。つまり毎秒幸せ。幸せ過多で人生勝ち組ルート爆走中。今日も推しが尊い。生きてて偉いよ!同じ世界線で生まれた私、グッジョブ!!


 1人劇場を繰り広げている間にも2人の間には差が開いていたらしく、推しが横断歩道を超えて角を曲がろうとしているところだった。赤信号が私たちを阻む。憎いぜ…赤信号め。


【置いていきますから】


 呆れ果てた様子のメッセージが今来た。遅くない?!


【今日も生きててくれてありがとう】


 あまりの通常運転に好きが限界突破して真顔で打った。待ってなんて言わない。私は遠くから同じ空気を吸えていることに感謝しながら歩くから。


 これも人生。推しは遠くで輝いていてね。


 ✲✲✲


「おはようございまっす!!」


 毎朝こんなことをしながら2人で出社している。大抵は置いていかれるのだけど。友達で同僚で推しなんて我ながら盛りだくさんな要素しかなくて幸せ。


「今日も推してんね〜!いいぞお!」


 もっとやれ!と言わんばかりの笑顔(推測)で、先輩の歩果ほのかさんが挨拶してくれた。


菜瑚なこは今日も可愛いです!」


 思いきり愛を叫ぶ。これが私の通常運転。午前中は仕事をしている姿を、じーっと眺める。目が合うと手を振って、仕事しろって視線で怒られる。何もかもご褒美すぎてあっという間に午前が過ぎていく。


 菜瑚って手が綺麗なんだよね。すらっと長くて細い。指輪もたくさん付けていてセンスが良くてしかも似合う。菜瑚の指になりたすぎる。そうしたら菜瑚に私が認知されるのに。


「はあぁぁ…」


「センパイ、働いて下さい。」


 昼休み、休憩室でひと息ついていたわたしの横に菜瑚が座る。綺麗な手をした天使がクマの柄の付いたマグカップを片手に声をかけてくれた。


「あ、菜瑚だぁ!!えへへぇ」


「ほんっとセンパイってバカですね」


 呆れながら綺麗な手でカフェオレを飲む。

 そうそう、菜瑚はコーヒーが苦手でいつもミルクたっぷりのカフェオレを飲んでいます。甘党な菜瑚も可愛い…。ミルクにさえ愛される。そのマグカップも羨ましい!


「菜瑚のこと大好きだから」


 熱が入りすぎて、つい真顔になってしまう。


「…働いてくれたらそれでいいです」


 むにっと両手で頬をつままれる。

 自慢じゃないけど、私のほっぺは、びよーんとお餅のように伸びる。菜瑚は私の頬がきっとお気に入り。


 何故って、そのときは眉が下がって口元が緩むから。


 一瞬だけ見せるその表情に、更に沼へ引き込まれていく。本人は気づいていないのかもしれないけど、本気で嫌がってない。それが嬉しかった。


「ふふ、菜瑚はかわいい」


 菜瑚の考えていることなんて知る由もなく。


「推し活と友情は混ぜないでください!!」


 憎まれ口でも叩くのかと思いきや、バチン!!と大きな音が小さな休憩室に響き渡る。


「いっったァ!!!」


 強烈なデコピンをくらう。痛みを和らげようとおでこをさすって労わった。ハッ!これってもしかして関節キスならぬ関節手繋ぎ?!菜瑚がれたのだからそうに違いない。天才的思考に気づき、頬を緩ませる。


 そんな私を憐れむ視線で見下す(ようにみえた)推しが1人。


「なこちゃ〜〜ん、機嫌直して?」


 あとで食べようと思っていたプリンを差し出して機嫌を伺う。すると菜瑚は髪を指でくるくると巻きつけてそっぽを向いたかと思うと、


「有り難くいただきます。真奈まなセンパイ」

 

八重歯を見せて百億点の笑顔を向けてきた。


「生きてて良かった…。プリンに感謝…!」

 

私は泣き笑いのような表情になりながら感情も追いつかぬまま、推しの笑顔に生かされることに感謝し、今日も元気よく推しが尊い!と叫ぶのだった。

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推し活と友情を混ぜないでください!! 小鳥 遊 @cotoy_

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