第6章『名も無きスーパーセル!』

第28話

〜ストワード中央〜


「違法カジノ?」

「……ああ」

「違法は良くないな」

「その通りでござる!」

リクが机に両手を叩きつけて立ち上がる。が、すぐに痛みで座り込んでしまう。向かいに座っているトナが笑いを堪える。

「いてて。……今回の依頼は、違法カジノに潜入し、内側から破壊をしてくることでござる」

「大統領が破壊なんて物騒な言葉使っていいのかい?まあ、依頼者があんたなら断る理由は無いがね」

報酬が良いからね、とウィンク。リクは眉間にシワが寄ったままだ。

「依頼者は拙者ではなく、カルロリラでござる」

「カルロオジサン?なんでまた」

「ストワード第一ホテルの客の落し物に、こんなものがあったらしく……」

紙切れだ。トナがそれを見ると、『持ち金が100倍!1000倍に!カジノへ行こう!』とギラギラした文字が書いてあった。

「……これだけだと違法か分からないね」

「だ、だからでござる!拙者が確かめられない領域というか……」

「そうだね。……カジノなんてストワードにはないし。シャフマの田舎で村人が集まる場所をそう呼んでいるだけだ。大規模なものは例がない。実態は知っておく必要があるだろう」

「トナもそう思うでござるか!」

「もちろんさ。行ってこよう」

リクの表情が明るくなった。分かりやすい男だと思う。

「今回はもう一人派遣するでござる」

「ほう?コンビというわけかい。一体誰と、」

「トナ兄」

上から低い声がして見上げると、アイマスクをした大柄な成人男性が。

「よう、1ヶ月振りだね。ジスラ」

「吸血鬼事件依頼だな」

「また一緒に仕事が出来て嬉しいねェ。しかしジスラは目立つんじゃないかい?」

「保安官だということはバレても良いでござる」

「……ん?」

「むしろ、向こうが慌てたら違法性があるということでござる」

「あー、そうか。そこから曖昧だからね。あくまで調査ってわけだ。……今回もよろしく、ジスラ」




〜ストワード第一ホテル〜


依頼が来たらまずは依頼者に話を聞くところからだ。トナとジスラは共にストワード第一ホテルに向かう。カルロが管理人をしている場所だ。

このホテルはどんどん大規模なものになる。ストワード中央駅からも立派な建物が良く見える。高級さが売りで、シャフマやフートテチからも金持ちが休暇に利用することで知られている。

「管理人に会わせて欲しいんだが」

もちろん政府の都合良し屋……トナの要望など叶えられるほどに暇な施設では無い。

「父さんの仕事が終わってから来よう」

「それいつになるんだい?」

「日没か……」

「俺も詳しくないが、こういう仕事というのは夜の方が忙しそうじゃないかい?」

とは言え、今は無理そうだ。まだ昼だし。夜まで時間を潰すことにする。

「男2人でストワードで食える飯ってなにか知ってるかい?」

「そこの通りにワックがある」

「ワックー?マジで言ってるのかい?」

「嫌か?」

「全く。クーポンが家にたくさんあってね。今持っていないことが悔しいだけさ」

「アプリに同じものがある」

「え、マジ?あんたのスマホに入ってるのかい?」

「ああ。昨日受け取ったものがある」

「昨日って。まさか昨日もワックだったんじゃないだろうね?」

「そうだが?」

「兄ちゃんはあんたの健康が心配だよ。ちゃんと栄養のあるものを食っているのかい?」

「そう言うが、ストワードにそういう店はあまりない」

「んー、それはたしかに」

「ドミーが言っていたが、駅前にサンドイッチ屋が出来たらしい。そこにするか?」

「サンドイッチいいじゃないか。野菜取れそうだし。……だが」

「?」

「もうワックの舌になってしまった。せめて野菜が多めに入ったバーガーを頼もう」



「久々に食うと美味いね」

「チーズバーガーを頼んでいたな」

「……言うな!俺は野菜を食ったぜ。宣言通りにね」

しばらく歩くと、人集りに出くわす。

「なんだ?事件か?」

「面白そうだね」

2人は興味津々で近づく。と……。

「「「きゃーっ!!!」」」

黄色い悲鳴。

「素敵!」

「かっこいいわ!」

「私とデートして!」


「ドミーかねェ」

「ドミーは女性人気より男性人気が高」

「やめてやってくれ。本人気にしてるんだから。結婚するまでどれだけ愚痴られたか……」


「これ、受け取ってください!」

「ちょっと!抜け駆けはやめなさい!」

女性たちが押し合い圧し合い状態だ。


「ボクは全て受け取るよ」


「贈り物はキミたちからの『愛』。そうだろう?」


「「「きゃー!素敵!!!」」」


また黄色い歓声。その場で卒倒する女性もいる。

「トナ兄、この声は」

「ああ、そういえばこの辺に住んでいたね。忘れていたが」


「他に、ボクに『愛』という名の贈り物をくれる天使たちはいるかい?」


「わ、私!私持ってきたわ!」

「私も!」


「……ありがとう。ボクの愛おしい天使たち!また会おう!」

ウィンク。短い金の髪が揺れ、真っ赤な瞳がキラリと光る。

「「「セオ様〜!!!」」」


「やはりセオだったか」

「セオドア・エル・レアンドロ……。くくくっ、アイツは昔からモテるねェ」

「追わなくていいのか?」

「何故?」

「トナ兄の妹だろう」

「別にいいさ。話すこともないしな。……あっ、そうだ。デヴォンサンに挨拶をしていいかい?最近会いに行けてなくてさ……」

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