砂時計の王子 3

まこちー

序章

快晴。砂漠は今日も暑い。

「おはよう」

大きな袋を背負った、背の高い男が店の前で立ち止まる。

「おお、トナ兄ちゃん。おはよう。帰ってきたのか。今日もシャフマは暑いな」

「あぁ。こうも暑いと、野菜の管理も大変だろう」

「そうなんだよ……。冷蔵庫が3つあるからなんとかなってるけどな」

店主が苦笑いする。

「30年近く前までは自分の魔力で氷を出してたらしいが、最近は魔力の無駄遣いは良くないって風潮が強くなったからな……。自前の魔法よりも電気を使うことが増えたよ」

「まぁ偏り過ぎなければいいんじゃないか?俺も半分くらいは魔力に頼っているぜ」

トナが手のひらから冷気を出す。

「ははっ、ありがとよ。なにか買っていくか?キャベツが安いぞ。フートテチから貨物列車で仕入れたから新鮮だ」

「ありがとう。それをもらおうか。あとイチゴはあるかい?こっちのオレンジも欲しいね」

「おう!その袋に入れるか?」

「いや、別の袋をもらおう。この袋には大切なものが入っているのさ」

「ははーん。ルルちゃんへのプレゼントだな?ラブラブだな!新婚だもんな!」

店主がニヤニヤと笑う。トナは困ったように目を伏せた。

「勘弁してくれよ」

「え、違ったか?」

「……違わない。だから困るのさ」

眉を下げて口角を上げる。老若男女、見蕩れてしまう色気だ。

「そういえばさっきルルちゃんを見たぞ。菓子屋に用があるって言ってたな」

「菓子?」

「ダイエットしろとか言ってやるなよ?」

「そんなこと絶対言わないさ。じゃあ、そろそろ帰ろうかね。また来るぜ」

ヒラヒラと手を振って、八百屋を後にする。


「ふうっ……暑いね」

長い前髪が汗に濡れる。後ろ髪は雑に1つにまとめてきたが、項はびっしょりだろう。

「風通しの良い服に着替えたいぜ」

寒いストワード地区から帰ってきたため、服の生地が厚い。

「ルル……」

「アントナさん」

「……!」

いつの間に。目の前に白髪の女性が立っていた。

「ルル、迎えに来てくれたのかい?」

「アントナさんが遅いから、道に迷ってるのかと思ったわ〜」

「まさか。俺があの土地を決めたんだぜ。ふふっ、今日はプレゼントがあってね……。帰ったら渡すから楽しみにしてくれ」

妻の肩に腕を回して抱き寄せる。

「あらあら、私もよ?でもアントナさん、歩きづらいし暑いわ〜」

「そうかい?……新婚なんだから、これくらいいいじゃないか」

「もう、困った人ね〜。ふふふっ」

そう言ってさりげなくアントナから離れて歩くルルーシェ。トナは彼女のこういうところが大好きで結婚をしたのだ。

「今回は3日の休暇だ。久し振りに美味しいものでも食べようか」

「そう言うと思って、さっきお菓子屋さんでケーキを買ってきたわ〜。あなたはチョコケーキでいいかしら?」

「チーズも欲しい。半分ずつ食べないか?」

「分かったわ〜。でも、ロウソクはどこにさしましょう?」

「ロウソク?」

「あらあら、忘れているの?今日はあなたの誕生日よ〜」

「……あっ」

「30歳おめでとう、アントナさん」


「……ありがとう、ルル」

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