第26話 『幽玄にとって布石』
本当に……殺しも、金も、女も、何も幽玄を満たしてはくれない。
何故なのか考えるのもめんどくさくなってしまっていた。
だから、その日暮らしの『お使い』も甘んじて受けて実行する。
それが小さなことでも、ヤバいことでも厭わなかった。
それくらいしか、日常のスパイスになるものがなかったのである。
「あーそれでも、流石にパンの耳にマヨネーズは思いつかんかった」
ふと思い出すヘンテコな体験に、つい言葉が口から滑り落ちる。
「なんだい? そのパンの耳にマヨネーズとは?」
目ざとく玉響が質問を投げかける。こういう勘は野生以上に鋭かった。
この場合、玉響に対して隠し事をすると後々が面倒くさいのを、幽玄は知っていた。
「いえ、拾われたクラスメイトの女の家の……朝食がそれだったんだ」
「へぇーなるほど。ふーん、そーいうことか」
玉響は面白そうに目を細め考え込む。相変わらず鋭い何かが働いている様であった。
「何か閃きました?」
「うーん、でも説明できないからなぁ。思うがまま話しても理解できないでしょ?」
そうなのである、玉響の特殊な閃きは一般人には到底理解できない。
たぶん、頭の中にロジックは存在しているのであろうが、現代の科学では解明できない場所なのであろう。
だから聞いても唐突過ぎて、思考が追い付かないのである。
「また教えておくれ。力になれるかもしれない。多分……その子は幽玄にとって布石になるだろうからね」
また玉響が何か言っている。
(いつものイミフーな予言か?)
と幽玄は首を傾げた。当たらないとは言わない。寧ろ恐ろしい程当たるのである。
だが、玉響の言葉を解明しない限りは当たっても当たったかどうかが分からないのが、難点であった。
そうしているうちに、玉響はタンカーに乗せられ帰って行った。
本当に人騒がせな兄だと、幽玄は溜息交じりに見送った。
しかし、この言葉は今回ばかりは、嫌と言う程思いさせられることとなる。
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