第20話 バレた先に在る不安

「失礼……します……」

声も途切れ途切れ気味で、斑雪は応接室をノックした。


店長が「どうぞ」と言い、中へ入る。

そこには案の定、クラスメイトの不動幽玄が据わっていた。

心なしか口元がニヤついているのは勘違いであって欲しいと、斑雪は恐縮する。


まさか店長と幽玄が知り合いとか想定外であった。

そしてこのバイト先がバレるとも思わなかった。


経歴詐称や学校への対応、考えると斑雪の未来は暗い。

斑雪にとって、融通も聞くし案外時給も良いこのバイト先はライフラインなのだ。

それが今、消えようとしている。


もしかしたら学生という身分も……消えようとしている。

まさに八方塞がりとはこのことだった。


斑雪が入ると同時に、無言で店長は扉に手をかける。

扉がパタンッと閉まる音が、死刑宣告にさえ聞こえていた。


「不知火さん、どうぞ」

幽玄は何言うでもなく、斑雪に着座を勧める。

仕方なく斑雪はソファーの向かい側に座った。


沈黙が室内を包み込む──。


それを打破したのは斑雪だった。

「あのっ、不動くん……その……今回の事は……」

「ここがバイト先だって学校に『申請』しているの?」

言おうとしていた言葉が、先に幽玄の口から告げられる。


ハッと顔を上げ、視線が幽玄と合うとそれ以上は何も言えず黙ってしまった。


(やはり、学校へは未申請か)

幽玄からしたらビンゴである。

こんなところでの仕事は高校としても風紀に反する。

いくら偏差値の底辺の様な高校であっても、許可など出すはずがない。


「その……どうしても働かないと生きていけないの。無理を承知なのは分かっているんだけど、その……学校には!!」


「でもこの店でも経歴詐称らしいじゃん」

「!? ──……」

それは図星であった。

もうバレていることも斑雪は悟った。


絶体絶命である。


──また沈黙が室内を包み込んだ。

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