僕には関係がない話

うな丼

僕には関係がない話

サイレンが鳴り渡る、人が行き交い埃がまう。

どっかから「イーッ、イーッ」と奇声まで聞こえてくる、、、これは絶対やばい場所だ。

ほんとはこんな場所にいるはずじゃなかった、教師としての仕事は今日は休み。

のんびり散歩でもしようとしていたら全身黒ずくめの男達にパンツ一丁で連れてこられた廃工場。

明らかにラスボスの雰囲気を醸し出す建物、本能が逃げろと体を動かす。

怪しい建物に入る直前。連中が目を離した隙に逃げ出し、ちょっとした隙間に隠れ息を殺す。



「よう、さぼりか?」

「ひぇ」

急に喋りかけられて変な声がでてしまう。

ここで働いてるんだろうか、上下黒の作業着を着たがたいの良い男。

胸元には知らないけど怪しいマーク、顔はよく見えない。

とりあえず逃げなきゃ。

「まあまあ焦んな、俺もだよ。一服どうだ。」

そう言いながら男は俺の横に座り、ライターの火を口元に近づけ、しばらくすると横からお菓子のような甘い匂いが香ってくる。

ついでに逃げるタイミングを失った、どうしようか。

「そんな恰好じゃ寒いだろ、兄ちゃんも吸うか?」

「いやー僕やんないんで、まあ気にせずどうぞ。」

「そうか、じゃあ遠慮なく。」

今やるべきことはどうやって逃げるか必死に考えることだ、先ほどから横の男と同じ服装を着た人間が何度もすれ違っているがばれる気配はない。

取り合えず口からパリポリ鳴らしている彼と隠れていようか。

ん、パリポリ、、煙草からは絶対に聞こえないであろおう効果音がきこえる。

「ココアシガレットおおおお」

工事現場で喋ってる時ぐらいの大声がでてしまった。

「うるせーよバカ。見つかんだろ。」

自分で必死に口を抑える。周りも騒がしかったからか見つかることはないと願おう。

「すみません、ちょっと気になっちゃって。」

今度は聞こえるか聞こえないかの声でしゃべる。

「えー嫌いか?悪かったな、ほれ珈琲やるよ。すごい寒そうだし。」

そう言いながら彼はココアシガレットを口に加えバリバリと音をならす。

「ありがとうございます。すみません急に大声だしちゃって。」

もらった缶珈琲に口をつける。冷えた体がよく暖まる。



「ここはどこなんですか?」

しまったこの質問は怪しくないか、まあすでに怪しいし大丈夫かもしれん。

「おーどうした、ここは『ショッキー』本部だよ、まあ変わり者の集まりだし名前なんてただの飾りだ。覚えてないのもむりはない。」

なんだよその某ヒーロー物にでてくる敵組織は、でもさっきから「イーッ、イーッ」って奇声聞こえてたもんな、そんな気はしてた。

じゃあ俺は今から怪人になるのか、それはいやだな。

まわりを見渡してみるとセクシーな女幹部っぽいのと、リアルな熊がいる。

今ここから逃げ出したとして逃げられる保障はなさそうだし、熊は怖い。

「おい、なんで『ショッキー』って名前かしってるか。」

気まづかったんだろうか。田口が口をひらいた。

「え、なんでですか」

思わず言葉を返してしまった。

まあこの人もさぼりだし、お互い隠れてるから暇つぶしにはちょうどいい。

缶コーヒーで暖を取りながら耳を貸す。

「まずな『ショッキー』ってのは略語なんだ、びっくりしただろ。」

いや、びっくりはしねーよ。だって元ネタもよくわかんない英単語の頭文字だし。

どうせちょっと変えたぐらいだろ。

「へー元はどんな名前なんですか。」

「しょげないで、キー坊だな」

「誰だよ」

東京ドーム全体に聞こえるぐらいの声がでてしまった。

「おいおい、ばれるだろ。うるせーよバカ。」

やべーよ、悪の組織に注意されてるし、恥ずかしい。誰にも見られてないのが唯一の救いだ。

「すみません。以外すぎて。落ち着きますね。まったく誰ですかキー坊って。」

「俺だよ。」


「お前かよ。」

薄いガラスなら割れてしまうくらいの声がでた。

思わずキー坊も俺の口元を抑える。

「だからうるせーって懲罰房送りになるぞ。」

「すみません、キー坊。」

「キー坊言うな、ガキの頃のあだ名だからあんま言われたくないんや。」

そうなのか、、ちょっと色々聞いてみようか。

「あのー、ここってどうゆう組織なんですか。」

「なんだ忘れちまったのか、教えてやるよ。」

普通に教えてくれるんだ。まあ変わり者集団って自称してたし誰も覚えてくれてないんだろう。まあ熊いたし。

「すみません。教えてくださいよ。」

「まったくしょうがねえな、まあ端的に言うと慈善団体だな。」

「慈善団体!!?」

真逆じゃねえか、どういうことだ。

その名前で?

いや、悪の組織は自分たちのことを正義だと思ってる場合もある。

「具体的には、どんな活動を?」

「まあ当たり前のことだよ。ワンちゃん猫ちゃんの保護や被災地での支援活動、あとボランティア団体の運営だな。」

ちゃんとしてんじゃねえよ。

しかもそれを当たり前と言えるかっこよさ。いや待てよいいことやってるのに何でこんな辺鄙な場所に?

それに慈善団体、それにかなり大規模のだ、そんな団体なら一般市民でも知ってるだろ。

「まあ、助けたあとはそこのいた人間の記憶を消しちまうがな。こんな風に。」

そういいながら細長い懐中電灯のような物を両目に当てられた。

一瞬くらっとして体の力がぬける。

しまった気を抜いてた。そうだ。まず俺はここに攫ってきたんだ。こいつの外見も服装も、明らか悪の組織だろ。

このまま改造人間になっちまうのか、くそ‼


だんだんと体の感覚が戻ってくる。

「あれ、なんもないですよ。いや、忘れたんだ。一体どの記憶を消したんですか。」

「安心してくれ消去レベルを『どうでもいい記憶』に合わせている。生活に関わるような記憶やここ最近の記憶は残ってるはずだ。あくまで実演だからな。」

信用できるかよ。

このまま洗脳する気か?

「まあ本来は教えることはないんだ。記憶を取り戻すのは体に相当の負荷がかかるからな。今日は特別だ。」

くそっ、にやけやがって。

いまは大人しく教えて貰おうじゃねーか。

「消した記憶は、、、、4歳の頃の初恋だ。」

「、、、りかちゃん。足がはやかったりかちゃんか。思い出した。」


どうでも良すぎだろ。俺の反応をみて田口は笑ってやがる。

「まあこんな風に記憶はいつでも消せる。あと今までの話は半分嘘だ。どれがとはいわないがな。まあ誰でもわかんだろ、直感を信じな。」

やっぱりか、でも、ここが悪の組織だろうと俺には関係ない、今はただ命がおしい。立ち上がろうとしたその時

「大丈夫か!?。」

遠くから警察の恰好をした男が近づいてくるのが見えた。

大分派手に攫われてたし、近所の人が誰か通報してくれたのか、これで一安心だ。

俺は立ち上がり身振り手振りで目立つよう努力する。

「どうやら時間切れだな、どうだ一緒に来るか?ここは君みたいな変わり者も受け入れてくれるぞ。」

あ、誰が変わり者だ、、、ったく。

「やめとくよ。この組織は俺には関係ない。それで終わりだ。」

もう俺の横にキー坊の姿はない、逃げ足の早い野郎だ。

まったく、なにが関係のない話だ、まあ深くかかわらなくてよかった。


「ありがとうございます、助かりました。これで家に帰れます。」

若い男の警官だろうか、必死に探してくれたのだろう顔が強張っている。

結局どれだけ大切だろうと目の前のことに集中してしまえば大事なことは忘れてしまうんだ。

逃げることに必死で最も大事な事を見落としていたんだ。

「君パンイチで外に出るのはまずいよ。22時10分、公然わいせつ罪で逮捕。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕には関係がない話 うな丼 @shugagonn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ