見えない人

@Sana-Lily

第1話 彼女との出会い

僕は目代紫苑メジロシオン、25歳、山梨県郊外でサラリーマンとして働いている。

医者から聞かれたことにただひたすら答えている。

なぜ病院?と思ったが、休日散歩していた時飛び出してきた子供を助けて轢かれたんだと思い出した。

ただ一つ不可解なのは視界がずっと真っ暗なこと。

感触からして包帯を巻かれているのだろうがなぜかはわからない。


「先生、なぜ僕は目に包帯を巻かれているのですか?」

「あぁ…言いにくいのだけどね…」

「?」

「君…今目が見えないんだよ」

「え?それってどういう…」

「事故の時当たりどころが悪くてね…幸い手術で治せるんだが結構難しい手術なんだ…」

「難しいということは失敗する可能性がある…と?」

「…ここだけの話、失敗する可能性の方が高い…そしてそれだけ難しい手術となると費用もかかる…」

「…でしたら…」

「ああ!今決めなくていい!むしろ今は決めないで」

「何故ですか?」

「事故直後、ましてや今は目覚めた直後だ。そんな状態で決断を早まるんじゃない」

「僕はそんな危険な手術をするくらいなら目が見えないままでもいいです。ですから手術は…」

「まぁまぁ!幸いここはリハビリの施設もある!目が見えないままにすることを考慮してリハビリもつけよう!その間ゆっくりじっくり手術について考えてみてくれ」

「わかりました…」


先生の押しに根負けし、決断は保留となったが、正直大変不服である。

そんなお金を払う余裕があるとは言えないし、リスクも大きい。

だったら、リハビリをさせてもらって、早々に社会復帰したい。

幸い、この世の中、バリアフリーが進んでいるし、まぁ、どうにかなるだろう。


リハビリが始まるまで1週間ほど自由にしていてくれとは言われたが、本は読めないしテレビは見えないしでやることがない。

…病院内を案内してもらうか。

これからしばらく暮らすんだしな、どこに何があるか覚えていたほうが便利だろう。

善は急げだ、早速ナースコールを…。


「何かありましたか?」

「あぁ、すいません。緊急ということはないのですが、この病院内を案内してもらいたくて…。」

「それは別に構いませんがなんで急に?」

「これからここでしばらく暮らすのですからある程度どこに何があるかは覚えておいたほうがいいでしょう?」

「なるほど、わかりました。今ちょうど手が空いているのでよければすぐご案内しますよ。」

「ぜひ、よろしくお願いします。」


食堂、トイレ、浴室、庭、リハビリや診察を行う場所まで時間はかかったが全ての場所を案内してもらえた。


「お疲れ様でした。これで病院内の施設は全て回りましたよ。」

「ありがとうございました。」

「流石に疲れましたよね。病室まで案内するのでそこでゆっくり休んでくださいね。」

「はい、やっぱり、目が見えない状態で歩くのは怖いですね。手すりがなかったらきっと一歩も歩けなかったと思います。」

「歩けているだけすごいと思いますよ。」


病室のベッドに横になると、どっと疲れが来て急に瞼が重くなった。


「やっぱり疲れているようですね。夕食までまだ時間がありますからゆっくり休んでください。」

「ありがとうございます。」


看護師さんとのその会話を最後に、僕は眠りについた。


そんな話をしたのも数日前でほとんどベッドで寝たままだったが流石に体を動かしたくなった。

体を動かすと言っても走りたいとかスポーツをしたいなどではなくただ動かしたいだけ歩くなどでもよかった。

と言うことで1人だけではあるが病院の中を歩き回ることにした。

幸い前に看護師さんが案内をしてくれていた時に病院内のマップはほぼ頭の中に入っていたらしい。

いろいろなところを歩きまわり、そろそろ自室に戻るかといったところで、どうやら僕は階段を1階分多く上ってしまったようだ。

僕の病室の方へ向かう廊下はなくおそらく目の前にドアがある。

僕の病室が最上階にあったことを踏まえると、ここは屋上だろう。

目が見えないので少々怖かったがあまり端のほうに行かないようにすれば外の空気に当たれると思いドアを開けてみた。

鍵がかかってなかったのですんなりと開いた。

ザァッと吹き抜ける風が心地よい、澄んだ空気が気持ち良いそんなことをふと思った。

その時誰かの声が聞こえた気がした、いや、聞こえた。


「ここに人が来るなんて珍しい!男の子だー!なかなかイケメンね!」


若い…女性の声…?

テンションがやけに高い。

なんで挨拶から入らないんだ…?

妙には感じたが声をかけられたら返さなければ。


「こんにちは。」

「ひゃぁあ!!私の声聞こえるの?!こんにちは!いい天気ね!」

「落ち着いてください。一息に喋られると会話に困ります。」

「そ…それもそうね…。えーと…私の声聞こえる?」

「聞こえていますよ。はっきりとね。」

「ほんと?!とっても嬉しいわ!えーと…お名前は?」

「目代紫苑です。シオンでいいですよ。」

「シオンね!これからよろしく!私は富士桜フジサクラっていうの。サクラって呼んで!」

「よろしくお願いします。サクラさん。サクラさんは、どうして屋上なんかにいるんですか?」

「え?!あ、あぁ…そう言うシオンはどうして?」

「僕は間違えて、ですね。ついこの間から入院しているんですが、階段を一階分多く登ってしまったようで。」

「そうだったの…すぐ戻らなきゃいけないかな?」

「そういうわけではないですが、なぜ?」

「いやぁ…屋上って来る人全然いないからさ!私いっつもここにいるんだけど寂しくて…少し話し相手になって欲しいなぁって思ってね」


いつもここにいる…?

病室から気まぐれに来るのならまだしもいつもここにいるとはどう言うことだ?

不思議には思ったが、僕も話し相手を欲していたし、その誘いを受けることにした。


「構いませんよ。僕もちょうど話し相手が欲しいと思っていた頃なので。」

「本当?!嬉しいわ!でも、お見舞いに来てくれる人とかは?話し相手にならないの?」

「あぁ、僕、仕事でこっちの方に来ていてしばらく実家に帰っていないんです。最初の頃は1週間に1度とか電話していたのですが、いつからかそれもなくなりまして。」

「そうなの、それは何だか寂しいわね。」

「まぁ、もう慣れましたし大丈夫ですよ。」

「そう…、あ!それもそうだけどシオン!!」

「何ですか?サクラさん。」

「今更だけど、敬語とさん付けやめて!」

「えぇ…。じゃあお聞きしますが、サクラさんおいくつですか。」

「28だけど、それが何よ。」

「僕、25ですよ?3つも歳の差があったら流石に敬語ですし、さん付けもしますよ。」

「何よ、たった3つじゃない。誤差よ誤差。」

「そんなわけないでしょう…。」

「敬語くらい外してよ、あとさん付けも。」

「はぁ、わかりまし…分かった。ただ、さん付けはそのままで。」

「仕方ないわねぇ、許してあげるわよ。私は寛大だからね!」

「ありがとう、サクラさん。」


何だか本当に子供のような人だな。

でも何だか、ここは居心地がいい。


「ところでシオン」

「何?」

「もうお昼時だと思うのだけれど、病室に戻らなくて大丈夫?」

「え…?あっ!!すみません!!また来ます!!」

「じゃなくて?」

「あ、ごめん、また来るよ。」

「よし、いってらっしゃい」


…不思議な人だ。

面白いし、興味深い、何より話していて楽しい。


「また、行くか。」


そう呟いて、僕は改めて少しずつ前へと歩き出した。

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