第20話 予選突破
用意出来るだけの物は用意した。
とうとう、この日が来てしまった。
虐められていた日々が懐かしい。
逃げてばかりじゃ駄目だ。
変わろうと思ったんだ…ただ抵抗しようと思ったら…虐めていた奴を殺してしまった…
それから…自殺しようと思っていたら…殺人鬼。
どうしてこうなったんだろう…
俺の何が悪かったんだ。
此処迄きたらもう戻れない。
ヤルしかない。
自分なりに色々考えた。
必要な道具も考え用意した。
相手は解らない…
だが、こんな大会に出場しようという奴が、真面な訳ない。
弱い訳無い。
幾ら考えても結論は出ない。
結局は逃げられないのなら…やるしかない。
「明日香行ってくるよ…」
寝不足気味で頭が回らない。
俺が留守の間は、組織の人間が明日香を見てくれるそうだ。
勿論、相手は女だ。
「行ってらっしゃい…あの、生きて帰ってね…死なないで」
「解っているよ…俺は必ず帰ってくるから」
「うん…」
多分、俺が死んだら明日香も処分される。
最早、俺の命は自分だけの物じゃない。
上手く組織に乗せられた気がするが…やるしか無いな。
俺は明日香に別れを告げタワマンを後にした。
◆◆◆
「ラビットファング、ご用意は出来ましたか?」
「ああっ、出来るだけの用意はした…だが、何故貴方が迎えにくる」
「さぁ、何故ですかね」
目の前にいるのはツクヨミ…神9と言われる最強の殺人鬼。
それが何故俺みたいな雑魚を迎えに来るのか解らない。
傍に居るだけで恐怖が走る。
もし対戦者にこのクラスが居たら一瞬で殺される。
「…」
「ほう…この前と違い冷汗をかいていますね…少しは進歩したみたいですね」
「貴方が凄く怖い…それだけは解る…幾ら頭で考えても殺せないし、殺される未来しか浮かばない」
「当たり前ですよ…それではこの目隠しをして車にお乗りください…言っておきますが外したら、その瞬間殺します…では」
俺は目隠しをし車に乗り込んだ。
視界を奪われた状態では何も解らない。
時間の経過すら解らない気がする。
ただ、一つ解った事は、車ごと飛行機かヘリコプターに乗った。
それだけは解った。
殺しあいが出来る場所。
そんな場所がその辺りにある筈が無い。
◆◆◆
どの位時間が経ったか解らない。
風が冷たい。
「ラビットファングついたぞ」
ようやく目隠しを外す事が出来た。
「此処は…」
「ふぅ、場所を知る必要はない…まぁ治外法権…法律が通用しない島…それだけは伝えて置く…あとは、大会が始まるまでは、他の参加者への攻撃は許されない…そこのコテージがお前の休憩所だ…体を休めて置く事ですね、あと3時間後…予選が始まる」
「予選?どんな事を…」
「それは、公平をきす為、始まるまで説明は出来ない…それじゃあな」
◆◆◆
予選は1人殺す事で突破できる。
今は此処に集中するしか無いな…
此処はどうにかなっても…問題は本選だ。
16人によるトーナメント戦。
優勝までは4回。
4回勝てばこの馬鹿げた茶番も終わる。
だが、アマチュアとは言え、殺人鬼…
KやSなんか比べ物にならない相手ばかりいるに違いない。
アマチュアレベルがどの位なのか見ないと死につながるな。
今は集中。
まずは予選突破だ。
◆◆◆
「ラビットファング…時間だ」
黒服の男の後についていくとそこは森だった。
不味いな…
実際の所は解らないが沢山の人間がいる。
不思議な事に大人から子供まで…
そして、沢山のモニターがその周りに明らかに地位のありそうな人間がマスクをして群がっている。
恐らく、俺の周りに沢山いる人間が出場者だ。
取り敢えず…なにかあったら逃げられる様に『一番後ろ』に下がった。
暫く待つと…アナウンスが流れた。
それと同時に黒服の中年の男とバニーガールがモニター近くの壇上に現れた。
「ようこそ、アマチュア殺人鬼の皆さん…そしてスポンサーの皆さん…本日司会を務めさせて頂くのは…あははは秘密です」
「同じく秘密です…こんな物騒な所で乙女が名前なんか言えるかボケ…」
だったら名乗ろうとするなよな…
こんな馬鹿げたアナウンスなのにピタッと声が止まった。
「静かになりましたね…それでは予選の説明を始めます…予算は簡単、これからよーいドンの合図で目の前の森で戦って貰います…本選への出場権は1人以上殺す事、もし複数殺したい場合はそのまま継続も可能…出場が決定したからもう戦闘は良いや…そういう人は手を挙げて頂ければ、別室に案内…本選まで寛いで貰える」
「予選を突破した人にはご褒美も用意されていますから、ぜひ頑張って下さいね…あと、後ろに居る方はスポンサーの皆さんです…活躍次第では、スポンサーがつく事もありますから、ただ勝利を目指すだけでなく、より華麗に戦うのもありですよ…それじゃ良いですか?」
「「5.4.3」」
うん、今の話、矛盾がある…
だれも気が付いていない。
森の中から戦闘が始まる…そう思っているのか無防備だ。
「「2.1 よーいドン!」」
「「「「「うぉぉぉぉぉーーーーーっ」」」」」
一斉に森に走り出そうとしている。
俺が優位に立てるとしたら此処だ。
俺はあらかじめ、用意していた小斧を構えて…まさに走り出そうとしている小柄な女に振り下ろした。
「ぎゃぁぁぁぁぁーーーーーーーっ」
頭を抱えて目の前の女は絶命した。
頭からピンクの脳味噌がはみ出していて目玉の片方が飛び出しているから…死んでいる筈だ。
俺は手を挙げて…
「予選をクリアしたから、もう良いです」
そう宣言した。
◆◆◆
「待ちたまえ、今のは反則ではないのか? スサノオ、ラビットファングを拘束…場合によっては処刑だ…反則は許されない」
壇上から司会の男が降りてこちらに向かってきた。
その様子を見ていた出場者も居たが『違反かも知れない』そう解ると森に全員走っていった。
「申し開きはありますか?なければ…このまま拘束…処刑させますよ?」
おちゃらけていた司会二人が目が真面目になり、その二人が駆けつけてくる前に一人の男が走ってきた…そして…
「動きが見えない…なっ」
俺はあっさり拘束されてしまった。
「申し開きがあるなら…早く言え…俺が殺す前に…」
此奴ら馬鹿か。
「今すぐ『よーいドン』の意味を調べてくれ」
「それに何か意味があるのかしら…解ったわ…あらっスサノオ、離してあげて…今すぐ彼を勝者の部屋に案内して…」
「どういう事だね!」
「これ…」
「そうか…これでは文句を言えないな…認めよう」
会場からブーイングが起きている。
「「「「「反則だーーーー」」」」」
だが、どうやら勝ったようだ…
「あ~説明させて頂きます!『よーいドンの合図で目の前の森で戦って貰います』というルールですが…今調べた所、『よーいドン』は始まりの合図という意味があります…つまり森に入る前、掛け声が掛った時点が正式なスタート…ラビットファングが相手を殺害したのは掛け声が掛ったあと…つまりあの攻撃は有効という事になります…」
「解って頂けたようで…良かった」
「それでは改めて…予選突破第一号はラビットファングです!おめでとう!」
どうやら認めて貰えたようだ…良かった。
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