第2話 魔王様改造計画
前回のあらすじ――超古典的な方法で異世界に来たら目の前に魔王がいたので、魔王をプロデュースすることにした。おわり。
「それで、私はまず何からやれば良いのだ」
魔王は尋ねる。
「そうですねえ。いろいろと改造しないといけないところがあるけれど……」
由里子は首を傾いだ。
「まずなにより、魔王様はどんな魔王になりたいか、ですね」
「どんな魔王とな?」
「はい! 魔王様はまだ姿がそれっぽいから、という理由で魔王に抜擢されてしまったのですよね。ですから、まずは自分の中の『どんな魔王でありたいか』のイメージを固めていきましょう!」
「そ、そうだな。畏怖くて、強くて、 他の魔人たちを引っ張るような……?」
由里子は確信した。まだ魔王は、自分の中の魔王のイメージが曖昧なのだ。
これはやりがいがある。
「そうそう、やっぱり魔王というとそんな感じですよね。それじゃあちょっとずつ具体的になるように一緒に考えていきましょう!」
「う、うむ。わかった」
――「なりたい自分」のイメージは、必要不可欠……!
由里子はいくつか質問を繰り返し、魔王の持つ「なりたい魔王」のイメージを引き出しつつ、ついでに魔界の現状も聞き出した。
長い間、人間の住む地上と抗争状態にあること。
十年ごとに選出される魔王と勇者が戦うことで、互いの均衡を保っていること。
そして、勇者との一騎打ちがあること――。
――ということは、最終目標は勇者との一騎打ちのそのとき。まさに負けられない真剣勝負……!
最終目標があれば計画も立てやすい。
由里子は頷き、それまでにできうる限り、魔王を魔王たらしめんと決めた。
「では今度はイメージをもとに、見た目――今回はまず身内向けに衣装を作りましょう。いまの鎧は既に傷物になっていますから」
「それはわかるが、身内向けとはどういう意味だ?」
「衣装は目を引きますから、新たな時代の魔王のイメージにもなります。それから、アイコンを作ることで魔王の象徴にもなります。衣装は一気に作るのではなく、素材もありますから定期的にアップデートをしていく方向でいきましょう」
「おお……、それなら職人がいるから作らせるか」
「恐ろしく、豪華で、そして気品に溢れた鎧! そして何よりも畏怖く! が目標です!」
「そうだな、畏怖く!」
由里子は更に魔王からいくつかの事を聞き出した。
いまの魔王が持っている特徴をピックアップし、旗印に相応しいアイコンを作り上げ、そして装飾品の中に組み込むことにした。
「これでひとまず、現在の魔王様を示すトレードマークができましたね!」
「うむ。しかし、これでいい気もするが……」
「まだですよ! 最終的には、魔力増強効果も入れましょう!」
「なんと……!」
魔王は職人たちに指示し、由里子が描き上げたアイコンや鎧をベースに新衣装を作るよう言った。職人たちは見た事も無い鎧に奮起し、作り上げていった。
「そういえば、魔王様はだいたい黒が基調ですけど、この魔界で尊ばれている色なんかはあります?」
「む、そうだな。黒と金、それから紫……、それから次点で赤なんかもあるが……、それが何か意味があるのか?」
「ありますよ! このアイコンを組み込んだ小さめのアクセサリーをたくさん作るんです」
「作ってどうするんだ?」
「はい! 次は、ファンの獲得です!」
由里子は自信満々に言ってのけた。
アイドルにはグッズも必要だった。グループ名やアイコンのついたTシャツを筆頭に、トートバッグやキーホルダーが主流だったが、これらもアイドルには必要不可欠だ。アイドルの運営はこれらの売り上げで成り立っていると言っていい。
由里子はそれを魔王軍に応用することにした。
まずは魔王の象徴として目立つような黄金の首飾りの装飾を作ると、今度は魔王の側近達には、素材を変えた黒色のバッヂを配布した。そして、師団長には紫、一般兵には赤と、色や素材を落としたものを配布したのである。
「後は、魔王軍に入る事はできないけれど応援はしている。そういう人達に向けてのアクセも必要ですね。一番下の色って事になりますけど、どうしようかな……」
「ふむ。階層の一番下の色か」
「魔王様が黒ですから、白とかはどうですか?」
「白は人間どもの色だからちょっとなあ……」
「じゃあ、灰色とかですかね」
「ふむ。それがいいだろう」
そういうわけで、魔王軍には入れないが、ファンになりたいという魔物たちに対しても次々に手を広げた。更に領地の視察と称して姿を現したり、時に魔物たちを鼓舞した。魔法で領地のもめ事や問題を解決し、傲慢ながらも魔界にとってなくてはならぬ魔王として振る舞った。
もちろん、魔王自身のスキルをあげることも忘れなかった。それから魔王の長所を伸ばしつつ、弱点をどうするかまで様々な事をした。
由里子は全面的に彼をバックアップしていった。
魔界の魔物たちは次々に、アクセサリーのバッヂを手にした。
「おいお前、魔王様の印、もう手に入れたか!?」
「おおもちろんだ。魔王軍には参加できないが、魔王様への忠誠は見せないとな」
魔物の一人は、衣服につけたバッヂを見せながら言った。
灰色の小さなバッヂがきらりと光る。
「しかし、今回の魔王様はずいぶんと話してくれるよな。最初に決まった時はもう少し大人しいのかと思ってたけどよ」
「そうだなあ。定期的に、今後の方針とか言ってくれるしな~」
「俺たちみたいに軍に参加できない奴らの事も考えてくれてるしな」
「もしかして、今回はひょっとして、人間界まで進出できるかもしれないぞ!」
魔物たちは俄然、やる気を出していた。
その後も魔王の特訓の日々は続いた。
その間に、勇者一行の進軍状況が逐一報告された。勇者たちの足取りが近づいてくると、とうとう到着日が予測されるようになった。魔界は緊張に包まれ、次第にピリピリとした空気が漂う。
そして、とうとうその日はやってきた。
「魔王様に報告申し上げます!」
玉座の前にひざまずき、槍を置いた魔物が頭を下げる。
「勇者一行がこの城に近づいております。そろそろご準備を……」
その言葉に、魔王は頷いた。
「いよいよですね、魔王様」
由里子が言うと、魔王は不敵に口角をあげた。
「ああ。いよいよだ……」
由里子は思った。
ここが最後のステージになる。自分には彼を最高の魔王として、送り出す責務がある。ここまで二人三脚で、やれるだけの事はすべてやった。できうる限りのことをした。
――まだだ。まだ、泣いちゃ駄目だ……!
由里子はぐっと自分を押し殺した。
「……」
しかし、魔物は何か言いたげに黙り込んだ。それに気付くと、魔王はすぐに言った。
「どうした。何かあるのか」
「あ、いえ、それが……」
「申してみよ」
魔物はしばらく言葉を濁していたが、やがて声をあげた。
「……その、ひとつ……、問題が……」
魔物は微妙に言いにくそうに話し出した。
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