ミルフィーユと瞳

小鳥 遊

ミルフィーユと瞳

 同じ時間を共有することを切なく感じる日が来るなんて思いたくなかった。


 遊ぶ予定の前日に慌てて予約して行ったカフェ、寄り道した公園のブランコではしゃぎすぎて子供たちにドン引きされたこと、お気に入りの服だと言っていたのにラーメンの汁のシミを付けてへこんでいる姿も、全てが寂しさに変わっていく。


 もう同じ歩幅で歩けない。隣を歩くことが辛い。わたしの瞳に映るあなたは、わたしと違う瞳をしているのに気づいてしまったから。


 幼いころから共に過ごしてきた思い出の部屋で、思考がぼやけていくのを感じながら身を委ねる。するとミルフィーユにフォークを突き刺したときのようにあっけなく、今まで築き上げてきた関係が崩れていく。


 そういえばミルフィーユを食べるのが苦手だと言っていたっけ。綺麗なものが崩れる様を見ていたくないとか。それでもミルフィーユは好きだと八重歯を見せながら笑っていた。


 でも目の前にいる彼女はそのときの可愛らしさは微塵もなく苦しそうな表情をしている。


「秋那…っ」


 湧き上がる恐怖感を誤魔化そうとするためのキス、もう何度目だろう。


「きみのが、」


 そのあとは聞きたくなくて

 願うように瞳を閉じた。


冬華とうかさんにそっくりで嫌いだ……」


 姉を想いながらわたしにキスをした姿なんて、

 どうか二度と思い出しませんように。

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ミルフィーユと瞳 小鳥 遊 @cotoy_

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