第4話 言葉は愛だ

 いやー、見ましたよ。見て良かったと思いましたよ。テレビの新番組の『まつもtoなかい』。

 松本人志と中居君がMCをする番組の初ゲストとして香取君が出演しました。

 そして、二人からインタビューを受けた香取君。

 中居君の病気を知った香取君が、毎日夜の七時頃に、二か月近くメールを送り続けたエピソード。

「中居君はこういう人だから。皆に大丈夫? 大丈夫? って聞かれると、大丈夫だって言ってしまう。そうすると、中居君がひとりになっちゃう。だから、毎日送ることにしました」

 って、香取君。


 胸が熱くなりました。

 道はたがえど、こころはひとつ。


「最後はだんだんネタ切れになってきて(中居君の病状が安定してきていたんでしょうね)。『今日はひじきを食べました』とかメールしてました。この人が……、中居君、ひじきが嫌いだから」って。

 

 これ、まんまBLで使えますがな。

 この人を、中居君と言い直したところなんて、距離感の詰め方や取り方が、まさにBL。この人って言ってしまえる相手って、突き放しているように感じるけれど、すごくすごく近くにいる人。

 香取君は中居君のことを話す時には、大抵「あの人」と「この人」を使っていますよ。そこには『僕の』の前置きがあるんですよ。『僕のあの人』『僕のこの人』っていう、所有の宣言が込められる。

 仲のいいご夫婦だと、「うちのあの人」って言い合いますものね。


 中居君も病状に関しては、松本人志と香取君にしか本当のことを言わなかったって……。泣けてまうがな。


 私、家族とは長い長い軋轢があり、家出するようにして一人暮らしを始めたんです。以来、互いに音信不通にしてました。向こうからも何の連絡もなかったですし。

 

 それで、母親から突然電話があったんで、その時は電話に出てしまっていたんです。無視しても良かったのになって、今になって思いますけど。

 そうしたら、父が大腸癌で〇〇病院に入院したと。

 それだけの電話でした。


 だから何なんだって、最初は虚勢を張っていましたよ。


 だけど、父と最後に交わした言葉も全く記憶に残っていない。私の人生、これでええんかいと。

 これが私の人生なのか、と。

 だから父のために行くのではなく、私のために行きました。お見舞いに花を持って。


 六人ぐらいの相部屋で、廊下にいちばん近い病床にいましたので、病院の廊下から父が見えました。私が黙って病室に入ると、父はぽかーんとしていましたね。

 互いに何の言葉も出て来ない。互いの近況なんて何も知らない。


 私は呆けた顔の父の病床の横に立ち、母から連絡があったことだけ伝えました。あとは、枕元に花瓶があったので、持ってきた花を自分で活けて帰ってきました。

 父は私が「帰るね」と言うと、ちょうど私が廊下に出たぐらいだったでしょうか。

 大きな声で「お父さん、頑張るからな!」と、言いました。


 その父も大腸癌のあとに肺癌になり、それでも癌を克服し、現在に至ります。

 ずいぶん後に母から聞いた話ですが、その日のうちに父は母に私が見舞いに来たことを、電話で知らせたみたいです。

 お父さん。嬉しそうだったよと、聞きました。


 テレビでの中居君と香取君のやりとりを見ているうちに、菊池寛の小説『恩讐の彼方に』を、思い出しました。

 そして、一度も木村拓哉の名前があがらなかったのは、誰かの意図的なNGだったの?

  

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