番外抄 ~贄として邪神に捧げられ眷属となった少女と親友の百合~

涙ひとつ

~贄として邪神に捧げられ眷属となった少女と親友の百合~



やすい命

ただあなたが助かるのなら

でも、ひとつだけ言っておきたくて


ごめんなさい

あの日みた、桜色の木々


約束だったけど、

守ることのない自分を、

許してとは言わないから


驚きで、哀しみで、凍り付く表情

薄れゆく、尊いみらいに

あどけない、あなたの笑顔を


こぼれゆく、命のしずくに

織り交ぜる、秘めたおもいを


届かなくても、後悔しないよ

さいごに、あなたの役に立てたと

胸を張って、誇りをもって


やすい命と、誤った見積もり


あなたの願いに目を背け

私はひとり、あてなき旅路をいそぐ


┈┈┈*┈┈┈


呪縛のメザメ

ひどく痛む、目覚め

やさしく騙る、夜明けの囁き


救われた、恩義返すこと

価値なき私に、希望をくれた

ならば私は悪となろう

ひとの業を背負い、未曾有の試練となろう


それでいい

なれど心に陰がさす


思い出せない、過去のこと

ひとりでに想う、なにかの温もり


にじられた、こころ

空っぽの胸に、のこる傷跡

悲壮に暮れる、雨模様

憂いる現実、怖れる未来

何もかもが、蝕まれ

うっすらとみえる、ひかり

それすらも、こわくて

圧しかかる、痛み

いつかの、陽だまりの

とおい記憶を、追いかける


┈┈┈*┈┈┈


あなたを知らない

私に、構うな

だいきらい、遠ざけた、ひとりの少女


でも

何故か、あの子は優しくて

空っぽの心に吹きこむ、穏やかな風


ひたすらに、逃げてきた自分を

肯定する、目一杯の、笑顔


こわい

逸らしたひとみ

喪えば、見失うひかり


もういない、居て欲しかった、誰かの記憶

そう、あなたがいれば、

こんなにも、苦しむことはなかった


恋われ駈けた心

支配された、居場所にもどり

ひとりうずくまる、月明かりの夜

忘れたかった、胸の痛みを

忌まわしい、あの子の優しさを

どうか受け止められるよう、私は、存在を問う


┈┈┈*┈┈┈


痛む、痛む、

とおくにみえる、あの子の姿に

心躍った、その理由

それなのに、


私は自分を許せなかった


締めつける、呪詛

昔年の、因縁

そうだ、あの子がいなければ

もう、苦しまなくて済む


敵をつくり、討つこと

あたりまえの日々

震える手で、耳ふさぎ

滲む視界、真っ暗になって

私はすべてに背を向ける


┈┈┈*┈┈┈


木漏れ日の、きおく

なにも要らない、どうでもいい

あの子なんて、どうせ、私にとっては何でもない

だから、だから、


もういいよ

あなたの痛み、攫っていくから


笑顔のあなたの、涙ひとつ

わたしはそれでも、あなたが大好きだった


さがしてた、わすれもの

ぐちゃぐちゃの、こころと、消えないひかり


命を賭して、あの子は寄り添った


空っぽの胸に、初めからあった

本当の自分、背けていただけ


ぼやりともる灯り、私は生きてる


わたしはまだ生きていたい

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