第384話 思い出のごはん

火蓮からの連絡を受けて帰って来た黎人と雲雀を玄関フロアで出迎えたのは翼とアンナの2人であった。


「お帰りなさい。師匠、お母さん」


「お帰りなさい!」


出迎えられた黎人と雲雀も「ただいま」と挨拶を返す。


「君がアンナちゃんだね。はじめまして」


「はじめまして! 翼ちゃんのお母さん!」


雲雀に頭を撫でられながら愛想のいい笑顔で返事をするアンナに雲雀は苦笑いで黎人を見た。


「あんたの子供がこんなに愛想が良いなんてどんな育て方だい?」


「いい子に育ってくれて嬉しい限りだよ」


普段とは違う雰囲気の黎人の返事に雲雀はあっという顔をしたがその後はアンナに手をひっぱられて言葉は続かなかった。


「お話は後で! お料理が冷めちゃうから! ね、翼ちゃん!」


「うん。早くいこう」


雲雀は翼に、黎人はアンナに手を引かれてダイニングへと向かう。


「じゃーん! ってほら、翼ちゃんも! せーの!」


「じゃ「じゃーん!」」


リビングテーブルに並べられた料理を翼とアンナは誇らしげに手を広げてアピールをした。


テーブルの真ん中には大皿で揚げたてのコロッケが盛られている。


「お、コロッケだね」


「うん。お母さんがよく作ってくれたから、今日は私がお母さんに作った」


翼は恥ずかしそうに雲雀に説明をする。


「へえ。翼は料理ができるようになったのかい!」


「火蓮ちゃんのおかげ」


「楽しみだねぇ!」


「うん」


笑って話す雲雀の言葉に翼は勢いよく頷いた。


「アンナちゃん、スープ取りに来て」


「はーい!」


紫音に呼ばれてアンナはキッチンへと向かった。


「わ、私も手伝ってくる! お母さんは座って待ってて!」


翼も手伝いに行ったので、残された黎人が椅子を引いて雲雀を席に案内した。

雲雀の席は翼がいつも座っている席の隣だ。


雲雀が座りながら、キッチンに立つ火蓮と紫音の2人を見て黎人に「どっちが本命なんだい?」と質問したが、黎人が首を傾げる姿を見て、先程黎人が話していた内容は照れ隠しでもなんでもなかったのかと思い呆れ顔で溜め息を吐いた。


料理も出揃って食事が始まると翼がいつもより大きな声で話し出した。


「お母さん、これ! 私が作ったコロッケだからお母さんに食べて欲しい」


「それじゃあ翼、取ってくれるかい?」


翼が作ったのはハートの形をしたコロッケであった。翼に取り分けてもらい、雲雀は何もつけずにそのまま齧りついた。


揚げたてだからかサクッといい音が聞こえる。


「美味しいよ翼。もうお母さんより上手なんじゃないのかい?」


「でも、私はまたお母さんのコロッケが食べたい」


「そうだね。これから好きな時に何回でも作ってやるさ」


翼の希望に返事をする雲雀の声は、少しだけ鼻を啜る音が混じっていた。


「はら、私の方を見てても腹は膨れないよ! 黎人も早く食べな!」


少し恥ずかしそうに雲雀は笑顔で目を潤ませながら話を晒した。


「あ! パパのはそれじゃないの!」


黎人が微笑ましく思いながらコロッケに手を伸ばすとアンナから待ったがかかった。


「それはアンナの。パパのはコレとコレ!」


「「え? アンナちゃん?」」


アンナは黎人が取ろうとした手前のハートの形をしたコロッケを自分の皿に取り分けると、その脇に置かれていたハートの一回り小さなコロッケ2つを黎人の皿に取り分けた。


それを見て驚いているのは火蓮と紫音であった。その小さなコロッケは翼とアンナの手本の為に火蓮と紫音が作ったコロッケであった。


アンナが作ったコロッケを黎人にあげると思っていた為2人にとっては予想外の出来事であった。


「それじゃ頂くよ。うん、美味しい!」


黎人が2人の手料理を食べるのはいつもの事だが、コロッケを作る時に火蓮が「せっかく大好きな人に食べてもらうんだからハートのコロッケにしようね!」と提案して紫音もそれを盛り上げたものだから、年甲斐にもなく恥ずかしさを覚えた。


「そ、それは良かったですね」


「ね、美味しいのはいい事よね」


2人のあたふたした答えに誰が作ったか教えて貰っていない黎人は「そうだな」とにこやかに返事を返した。


その様子を見て、雲雀は何かを察して「はは〜ん」と楽しそうな笑みを浮かべた。


しかし場を掻き乱すような事はせず、隣で自分のコロッケを取って美味しそうに食べる翼の姿を見て「美味しいね」と笑顔で話しかけたのであった。





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あとがき 


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