第340話 運動会3 《親子競技》

運動会午後の部、お弁当の時に話題に出た親子競技の順番が回ってきた。


親子競技の種目は《二人三脚》である。


大人の力だけで勝ち負けが決まる事はなく、ペアでの息のあった足並みが求められる。


幸とアンナのグループは後半の順番で、クラスの同級生達がチグハグで笑いをとったり、見事に息のあった様子で徒競走がビリだった子が一等になって拍手をもらったりして盛り上がっている。


そして、周りの声援を受けて、幸とアンナとは別のクラスの子が物凄く息のあった走りでコースを駆け抜けている。


特に、これまでの同級生よりも観客である他の学年の親の声援が大きい。


その理由は、その子がペアを組んでいるのがとある有名人であったからだ。

その子は親が運動会を見に来れなかった生徒であったが、そういった生徒には空いている家族がペアを組んで二人三脚を走る。


今回ペアを組んでいる親役は駅前にポスターが飾られる程の有名人である火蓮であった。


火蓮とその子はぶっちぎりで一等でゴールすると、嬉しそうにハイタッチをして、注目を集める火蓮と一緒に声援をくれた観客に手を振っている。


親と競技に出る事は叶わなかったが、有名人と二人三脚を走ったというのは帰ってからのいい土産話になるだろう。


そして、次のグループ。ついに、中原家と春風家の参加するグループの順番がやってきた。


周りからの注目度は、かなり低い。


他の学年の親達は、先程の有名人火蓮が走ったレースについて話しており、このグループには興味が無さそうである。


一部の観客は盛り上がっているが、先程のようにどの家族も注目するほどではない。


しかし、そんな事は関係なく、並び的に、黎人を挟みながら、アンナと幸がバチバチと火花を散らしていた。


「負けないからね!」


「こっちのセリフだぜ!」


2人は言葉を交わした後、指定されたレーンに入って親子で片足を結んで準備していく。


「パパ、1、2、1、2だよ!」


「アンナの歩幅は覚えてるからバッチリだよ。まずは左足、パパと足がくっついてる方から前に出すんだぞ? それと、ゴール前で焦らないようにな。歩幅が変わったら上手く走れなくなるからな」


「うん!」


アンナと黎人は準備万端。


幸と幸地も、同じように掛け声などの確認をしている。


そして競技者の準備が整うと、担任の先生が、発走の合図を出した。


「スタート!」


掛け声と共に、競技者は一斉にスタートを切った。


「「いち、に、いち、に!」」


タイミングを合わせて、二人三脚でスムーズに走っていく競技者達。


幸やアンナが運動神経がよく、同級生達からは注目されていたが、他の同級生も親と呼吸を合わせてこのグループは全体的にスピードが速い。


それでも頭少し抜けているのが、同級生の下馬評通り春風家と中原家であった。


どちらも譲らぬ展開で、コーナーを過ぎて後はゴールまでの直線である。


「よっしゃ、父ちゃん、ゴールが見えてきた! ラストスパートだ、あっ!」


幸が、ゴールテープが見えた事で並んでいるアンナと黎人の親子に気が焦ったのか、歩幅が狂ってしまい、足がもつれてしまった。


「幸、危ない!」


幸地は咄嗟に幸と結んだ足を止めて、転びそうになった幸に手を出して転ばないように庇った。


事前に、焦らないように確認していたアンナは、したり顔で幸の方を見た。


しかし、それが行けなかった。


ゴールまで後少し、よそ見をしたアンナは、何もない所で、少しの運動場の凹みで躓いてしまったのだ。


「きゃっ!」


黎人も、コケそうになったアンナがコケないように支えた。


トップを走っていた2人の足が止まった横を、他の同級生がトラブルなく追い越して、先にゴールしてしまった。


5組で走ってトップを走っていたのに、春風家と中原家は足が止まってしまったので4、5着という結果になってしまった。


2人を追い越して一等になった子は、徒競走は最下位だった同級生で、足を解いた後に親に飛びつくようにして喜んでいる。


「幸君とアンナちゃんに勝ったよお父さん!」


と父親と共に喜びの声をあげている。


「パパ、悔しいね」


「最後に気を抜いちゃったな。でも、パパはアンナと一緒に運動会できて楽しかったぞ?」


「うん、アンナも!」


悔しそうにはしているが、アンナは笑顔である。


そして、幸も、幸地に悔しさをこぼしていた。


「あー! 悔しい!」


「残念だったな、幸。お父さん来年も見にくるから来年はリベンジしような」


悔しそうにする幸に、幸地がそう話すと、幸は目を輝かせて幸地の方を見た。


「うん! 約束だよ! 今年は去年よりも楽しいから、来年はもっと楽しくなるよな!」


「そうだな。来年までに特訓しようか?」


「うん! 来年は絶対勝つ! でも、万里ちゃんに一等見せたかったな。なー父ちゃん、万里ちゃんは来年も見に来てくれるかな?」


幸の質問に、幸地はドキリとした。

その後、幸の頭を撫でながら「きっと来てくれるさ」と言って笑った。


親子競技の結果は少し残念であったが、幸もアンナも、楽しそうに幸地と黎人と手を繋いで、自分の順位の場所に並ぶのであった。

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