第339話 運動会2 《お昼のお弁当》
運動会午前の部が終わりお昼ご飯の時間になった。
子供達が親の所に向かい、お弁当を食べる。
この親と食べるという行為は一時期廃止になっていた学校が多かったが、今では復活している所が多い。
共働き等で運動会を見に来れない親がいる子供達の配慮という事で子供達は運動会であろうとお昼になると教室で給食を食べていたのだが、ある時期にそれが以前のように家族で食べる事を復活させた学校が増えはじめた。
それは、一つの教育方法の転換と言ってもいい。
子供達は、なぜ親が見に来れないのかを理解できるように仕事や生活についての授業が行われ、子供達が親の仕事に理解を表すようになったのだ。
そうする事で、運動会も見にこれないくらい忙しい親が作って持たせてくれたお弁当の時間を大切にするようになり、見に来れなかった親にどんな運動会だったかを家で話し、親子の会話も増えたという報告もある。
それに、給食を食べるようになっていた時期に比べて運動会に参加する親も増えた。
親子での触れ合いが減ったせいで、仕事を言い訳に見に行かなかった層がなんとか有給をとって見に来るようにもなったのだ。
勿論、参加する親が増えたのはそれだけが原因ではなく、以前よりも日本の経済が安定した結果休みが取りやすくなったというのもある。
学校が親に配慮するのではなく、社会、会社が子供に配慮するようになったともいえる。
勿論、そんな会社ばかりではないのだが……
それに、子供が孤立しないように、親同士のネットワーク、いわゆるママ友と言われるようなネットワークも以前よりも親密になり、友達の家でご飯を食べるように、子供をお願いできる環境も構築されている。
今回の運動会、黎人の周りのアンナや幸の友達はみんな家族が見に来ているし、親が見に来ていない子供達も、友達の家族と一緒に食事をとりながら、親の作ってくれたお弁当を自慢している。忙しい中でも作ってくれたお袋の味や父の味であろう。それがたとえ冷凍食品であろうと関係ない。
親が忙しいのを理解しているからこそ、より嬉しいのだ。
勿論友達の家族と一緒に食べるのだから、おかずをもらったり交換したりして楽しんでもいる。
そして、黎人達もお弁当を囲んで食事が始まった。
幸地は黎人の弟子であるし、万里鈴は翠の友達で黎人の仲間玲子の弟子なので、一緒に食事をする事になり、まるでお花見大会のような大きな輪になってお弁当が真ん中に置かれた。
お弁当の蓋を開けた瞬間、幸が嬉しそうに大声で話した。
「あ、これ父ちゃんが作ったやつだろ?」
まず反応したのが自分がリクエストした玉子焼きではなく、お弁当の3分の1ほど場所を取っている目玉焼きが乗ったハンバーグであった。
「今年はみんなで食べるから大きくなって大変だったから万里鈴さんに手伝って貰ったんだよ」
「確かに、父ちゃんが作ったにしてはひび割れてないもんな! 父ちゃん、万里ちゃん、ハンバーグも卵焼きもありがとう!」 「ありがとう!」
幸の返事に幸地は苦笑いだが、幸と千聖の2人のお礼に万里鈴と2人で「どういたしまして」と相槌を打った。
何故幸が嬉しそうにハンバーグに反応したかというと、去年の運動会のお弁当は幸地が子供が喜ぶおかずという事で睡眠時間を削ってその時だけはと作っていたお弁当の半分が白米、もう半分がギチギチのハンバーグで白米とハンバーグを跨ぐように目玉焼きが乗せられた男飯だったからであった。
幸地の言葉に、翠が仲良く2人でお弁当を作ったのねと万里鈴を揶揄い、万里鈴が顔を朱に染めてるのはご愛嬌である。
「僕、友達とおかずの交換してくる!」
昼食も進みお腹が膨れてくると、千聖が取り皿に唐揚げを数個のせて、友達の所へ向かっていった。
これも、お弁当の醍醐味である。
アンナも輝羅達とデザートのフルーツを交換しながら楽しそうに食べてる。
「父ちゃん、はい、最後の唐揚げ!」
万里鈴の作った最後の唐揚げを、幸が幸地に差し出した。
「まだ沢山食べるものがあるからお父さんじゃなくて幸が食べてもいいぞ?」
「父ちゃんにはお昼から頑張ってもらわないといけないからな! 黎人おじさんには負けないぜ!」
「パパは負けませんー! パパ、パパも火蓮お姉ちゃんと紫音お姉ちゃんの作ったお弁当食べてるから負けないもんね!」
幸の言葉を、背中越しに聞いていたアンナが反応して張り合うように黎人に言った。
アンナの横で「輝羅が幸君もアンナちゃんも頑張ってですわ」と2人を応援している。
アンナの言葉に、黎人は笑いながらガシガシとアンナをなでる。
「そうだな。まだまだ弟子に負ける訳には行かないからな」
「いえ、こればっかりは黎人さんだろうとも負けられません。子供に応援してもらってますからね!」
売り言葉に買い言葉。黎人の挑発に、幸地が好戦的な返事をした。
何のことかというと、この後、午後の部にはアンナと幸の学年の親子種目がある。
その親子種目でアンナと幸は対決する事になっているのだ。
「万里ちゃん、お父さんとお兄ちゃんを頑張って応援しようね!」
おかず交換を終えて戻ってきた千聖が、万里鈴に話しかけた。
「そうですわね、目指せジャイアントキリングですわ」
ニコニコと笑いながら、隣に座った千聖の頭を万里鈴がなでる。
午前の部の徒競走では、アンナと幸は同じグループでは知らなかったがお互いに1等で、2人の学年の中で公認の運動神経のいいライバルなのである。
他にも色々な話で盛り上がりながら、楽しいお弁当の時間は過ぎていくのであった。
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