ひまわりと氷那は、ここ数日は見学として上級ダンジョンの探索に同行していた。

本来、黎人だけならこんな事はしないのだが、姉弟子達のダンジョンへ潜る姿をみせたかったからだ。

これまで黎人が育てた弟子達は、戦い方など知らない素人であった。

だからこそ、マニュアルに捉われない戦い方をするので、氷那の成長の為に、マニュアルに頼らない戦い方を見せたかったのである。

今日は火蓮と紫音と一緒に、Aクラスダンジョンに来ている。

火蓮と紫音の2人は、Sクラスダンジョンに上がれるのだが、それをすると世界ギルドの管轄になってしまうので、あえて黎人がオーナーを務める日本冒険者ギルドが管理するダンジョンを探索していた。

正直、この2人の戦い方は参考にならない。

居合切りの様に剣を引き抜き、炎の斬撃を飛ばして魔物を吹き飛ばす火蓮。

雷魔法で己を雷に変えて一直線に魔物を貫き、手から紫電のイカズチを放電して魔物を焼き殺す紫音。

本来2人でバディを組む必要も無いのだが、なぜか絶妙にお互いをカバーしあっており、少しの隙もない。

魔物を蹴散らした後、火蓮と紫音が黎人や氷那、ひまわりの所まで戻って来た。

「どう？　かっこよかった？」

妹弟子にいい所を見せたかったのか、火蓮がウインクをしながら聞いてきた。

「それを聞いたら台無しでしょう？」

すかさず紫音のツッコミに、火蓮は「そっか」といって頭をかいた。

「かっこよかったです。皆さん凄かったけど、お二人はまたとんでも無いです」

氷那が返事をする隣で、ひまわりは首が取れるのではないかという程首を縦に振っている。

「どうだ、氷那、誰もマニュアルを守ってないのに凄いだろう？」

これまで氷那とひまわりの2人は、初日に楓と翠に指導してもらい、次の日には明水子と紗夜と風美夏のチーム戦闘を見学して、昨日はエヴァのソロで魔物を蹂躙する戦闘を見学した後に、今日は火蓮と紫音のバディとしてのコンビネーションをみた。

正直、エヴァや火蓮と紫音の戦い方は今は参考にならないだろうが、後々にこれが糧になるだろう。

しかし、この数日間を経験した事で、氷那の戦い方は劇的に変化する事になる。

愛読のマニュアル書はゴミ箱に行き、マニュアルをなぞるのではなく、ひまわりを見て、自分で考えて行動する様になった。

ただ、今までのマニュアルをなぞる癖がすぐに抜ける事はないので、失敗もあるが、それは黎人がフォローしてあげればいい。

ただ、マニュアルではなく姉弟子達を真似て、今の実力ではできない行動をして驚かせる事もあるが、ステータスが上がってくれば、それも様になって来るだろう。

できない事に挑戦する事はいい事である。

ひまわりも、姉弟子達に自分から性別の話を打ち明けていた。

緊張はしていたが、黎人の言葉を聞いて一歩踏み出す覚悟をしたのだろう。

そして、姉弟子達は、性別ではなく、ひまわりはひまわりとして受け入れている。

自分を認めてくれる人が増えた事で、本人は気づいていないだろうが、背筋が前よりしゃんと伸びる様になった。

2人の成長を見守りながら、黎人の日々は過ぎていくのである。

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