第206話 作戦失敗

少女の気分は気を抜くと鼻歌を歌ってしまいそうなほどに晴れ渡っていた。


ここ最近は自分の思い通りにいかない事が多々あったので、ずっとイライラとしていたのだが、昨日ついに鬱憤を晴らすことができたので、今日の機嫌はすこぶるいい。


それに、今日は、それに伴ったもう一つのイベントを見ることができる。


その為に、仲間と早くから登校して特等席で待ち構えている。


昨日はダンジョンで、仲間とアルバイト時代の後輩を使ってムカツク生徒の1人、松井星空を魔物の群の中に閉じ込めて置き去りにすると言う罠に落としてやった。


魔物に殺された妹の悲報を聞いて姉の方もさぞ落ち込んでいる事だろう。


しばらくの間、校門が1番見える校舎の廊下で松井姉が来るのを待っていると、仲間の1人が疑問を口にした。


「そう言えば、妹が死んで大変な時に学校とか来るのかな?」


少女は、その言葉を聞いて自分がその事を忘れていた事に気がついた。


家族が死ねば、葬式が終わるまで学校は休む事になるだろう。


星空を罠にかけた高揚感と姉の絶望する顔を見れる期待で、家族が死んだら学校に来ないだろう事を失念していたのだ。


だが、学校側としては生徒集会を開いて黙祷することくらいはするだろう。


あの事件以来、柏木風美夏は松井星空とよく話していたからそっちの顔で我慢するしかないか。


まあ、噂では柏木が冒険者をやっているから友達になった松井星空が冒険者を目指した様だし、責任は感じるだろうな。


考え様によっては本来1番ムカついている柏木の苦しむ顔が見れる。


少女は目的を変えて移動の為に仲間に撤収を言おうとした所で、仲間の1人が「来たぞ!」と小さく叫んだ。


少女はまさかと言った様に顔を校門に向けた。


するとそこには松井姉と、なんの怪我もなく笑顔で登校する松井星空の姿があった。


「おい、なんで生きてるんだよ」


少女は心底そう思った。


少しの間でも、ちゃんと冒険者マネジメント会社に所属して冒険者を目指していた自分でも、あの半分も魔物がいれば絶対助からない。


ノルマ稼ぎに必死な指導役の先輩達が居ようとも全員魔物の餌になるだろう。


それなのに、より残虐になる様に後輩達にも声をかけて倍の魔物を用意したんだぞ?


初心者の仮免冒険者が助かるわけない。


しかし、少女の考えとは正反対に、昨日の出来事などなかったかの様に松井星空は笑顔で姉と共に登校している。


自分の立てた画期的な完全犯罪が失敗したと分かった事に、少女の晴れわたっていた気分にはドス黒い暗雲が立ち込めた。


「チッ、次はもっと深い所の魔物で確実に成功させてやる! 行くぞ!」


少女の機嫌の悪そうな怒鳴り声に、仲間は黙って頷いた。


しかし、次の作戦が決行される事は無かった。


授業が始まる前に、警察と冒険者ギルドの職員が学校へ訪れて重要参考人として少女達は警察に連れて行かれる事になるのだから。


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