第187話 返済日
本日は黎人の誘いで冒険者の店に行く事になっている。
弁当屋を閉めた後の遅い時間なので、店に迷惑でないかと紗夜は心配していたが、基本的には初心者向けと言われる冒険者のお店は24時間営業である。
ダンジョンが24時間開放されている為、需要の高い初心者向けの店は開いているのである。
黎人と紗夜、風美夏が連れ立って歩いていると、そこに、例の借金取りの男が現れた。
最近は現れていなかったが、今回は面と向かって堂々と現れた。
「あんた、また___痛っ!」
風美夏は番犬の様に反応したが、後ろを歩いていた紗夜からチョップが入った。
「今月の返済ですよね。準備はできています」
黎人と出会ってから、一月は経っている。
このタイミングで来てもなんら不思議ではないのだ。
安保は封筒を受け取ると中身を確認した。
今回は利子だけで無く、今月分の元本の返済分も入っている。
文句はつけられないはずである。
「確かに。しかし紗夜さんさあ、こんなチマチマチマチマ返しても終わりは来ないでしょう? あの店と土地を売ってもらえりゃすぐにチャラだぜ? その後の事が心配だって言うなら俺が面倒見てやるからさ」
安保は返済は受け取ったのだが、まだ残る借金の額にそんな事を提案してきた。
「あんた、勝手な事を!」
風美夏は怒りを露わにするが、黎人はニコニコとした表情で見守っていた。
そんな話に靡く様な意志の強さなら黎人は弟子に取っていない。
以前、もし弁当屋を存続させるだけなら援助しようかと話した事がある。
その時の紗夜の答えはNOであった。
自分の大切な思い出の場所で、自分の行動で招いたピンチだからこそ、人の手は借りずに自分の力でなんとかしたいと言っていた。
勿論、今の現状だと利子だけでも返せており、冒険者になって+αの収入ができたり、弁当屋の売上が上がれば地道でも返済していける事が前提の話で、この借金の所為で風美夏が学校を諦めたりしなければならなくなれば、店を手放すか、その時は力を借りるかも知れないと言っていた。
見通しが甘いと言う人も居るだろうが、この1ヶ月で、有言実行して利子だけでは無く、元本も減らせる返済を行っているのだから文句は言えないだろう。
そんな意志の強い紗夜に、安保の言葉は耳にも入らないだろう。
「安保さん、この店は私と亡くなった主人、それに風美夏の宝物です。何を言われても手放す気はありません。 それに、段々と売り上げも戻って来て、今回の様に返済は可能ですし、これからを思えば、想定よりも早く返済できるでしょう。申し訳ありませんが、お引き取りください」
いつものホワホワした雰囲気とは違う力のこもった瞳に、安保はたじろいだ。
「ち、まあ今回の返済はきっちりして貰いましたからね。これからもちゃんとお願いしますよ。来月も、何も起こらずにちゃんと返せたらいいですね!」
安保は捨て台詞を吐いてそそくさと帰っていった。
風美夏はそれをベーっと舌を出して見送っていた。
「春風さん、すみません。途中で銀行に寄ってもいいですか? 武器を買うのにお金を下ろさないと。風美夏の分だけでも」
紗夜が大金を持ち歩いていたいたのはこれから武器を買いに行く為だったらしい。
黎人としては、弟子に出させる気はない為、苦笑いで答える。
「俺の弟子でいるうちはその辺りの心配をするな。環境を整えるのも師匠の役目だ」
「でも、そこまでしてもらうのは……」
「紗夜が風美夏の事を思って行動する様に、俺も弟子の事を考えて指導するんだ。ここは師匠を立てて甘えておけ」
「分かりました、ありがとうございます」
その後、新潟の
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