146話魔王のスローライフ?

黎人は久々に東京の家であるタワマンの最上階に居た。

そこから見える景色は、今まで電気が不足していたのが嘘の様な綺麗な景色が広がっていた。


魔石のおかげで電気がまた普及して、今までの時間を取り戻す様に社会が動き始めた。

人々は会社が始まり仕事に戻り、円相場が戻ってきて今まで使えなかった日本円が使える様になれば、徐々に生活は元に戻っていく。


スーパーやコンビニ等に商品が並び、それを普通に買って家で食卓を囲む事に皆が喜びを感じた。


変わったのは、皆の意識だった。

冒険者を悪く言う人は殆どいなくなり、冒険者になる人も増え、冒険者が社会に馴染んでいった。


その内、小学生の将来なりたい職業ランキングにも入るかも知れないし、高校生や大学生の就職の選択肢に冒険者マネジメント会社は入る事だろう。

これから日本人が冒険者に触れる機会はどんどんと増えていくだろうから。


インターホンがなって、来客がやって来た。

黎人はモニターを操作して鍵を開錠し、来客を招き入れる。


「おう。魔王様は今回は派手にやらかしたな」


「なんだよ藪から棒に」


来客は坂田五郎だった。黎人としては、坂田の言ってる事は理解できるが、この返答が、2人の距離感だ。


坂田はこの魔王と言う呼び方を気に入っている


勇者は、祭り上げられて魔王を倒しに行く操り人形であり、神様は、未干渉の傍観者。

なら魔王は?種族を守る為に己の手を汚すリアリストにみえる。

これは、坂田の解釈だが、だからこそ身内に手を出されたら許しておかない黎人にピッタリだと思う。


家族、仲間、そして最近は弟子。

昔からこの辺りに手を出されたら容赦しない。

自分に刃を向けられても無頓着なくせに。


「政府やらがれい坊の事をそう呼んでたんやよ。お前にぴったりやと思ってな。

それにしても、今回は派手にやったな」


派手にやった。今回は日本を変える為に黎人は世界を手玉に取った。まるで本物の魔王の様に。


「れい坊、結婚して冒険者引退したらスローライフを送るんや言うてたけど、結婚がダメになったどころかスローライフも送ってないんちゃうか?」


坂田の質問を黎人は鼻で笑った。


「スローライフってなんだと思う?」


「んー、脱サラして田舎暮らしとかはよう言われるんちゃうか?田舎で田畑耕してのんびり暮らすとかな」


「田舎で農業してる人がスローライフなんて言ったら農業をしてる人に怒られるぞ」


黎人は坂田の回答をクスクスと笑った。


「スローライフってのはさ、金持ちの道楽なんだよ。

金に余裕があるから田舎で田畑を耕しながらのんびりくらせる。

農家で生計を立ててる人なんかは必死だよ。

金があってもスローライフだからって言って何もしない人生はつまらないだろ?

俺が思うスローライフはさ、定年退職後にお金の余裕があるおじいちゃんなんだよ。

普段は仕事もせずにのんびりとした日常を過ごしてさ、気が向いたら、頑張らない程度に孫の面倒を見て、一緒に遊んだり自分の得意な事を見せて孫に尊敬されたりするんだ。

それで、孫の為に運動会なんかで偶に本気を出したりする。

そんな、老後の余裕のある生活をスローライフだと思うんだよ」


「なるほどなあ。そんで、弟子はこれからもふえるんか?」


黎人の言う事は、まさに黎人の引退後の生活だった。


第一線から退いて、気が向いたら弟子の面倒を見る。

今回の件なんかは楓と翠が冒険者ギルドで不利益を受けたから本気を出して冒険者ギルドを買い取る為に世界を手玉に取り、昔に火蓮がガラの悪い冒険者に絡まれたが、そんな事がもう起こらない様にガラの悪い冒険者が少なくなる様に冒険者マネジメント会社を作った。

そして、理由は違うが、昔紫音が虐められて辛い思いをした。冒険者差別で同じ思いをしなくていい様に日本人の冒険者に向けるイメージを変えた。

国を相手取る自分の姿を、エヴァに見せて目標にしてもらい為に世界を相手に本気を出したのだ。


規模がバカみたいに大きくなっただけで、おじいちゃんのスローライフと同じ様な物だった。


「さあな。のんびり旅行をして、もし気が向いたら弟子が増える事もあるかも知れないな」


「そしたら俺はお前がスローライフを楽しめる様になるだけ暗躍したるしかないなあ」


坂田は、議員では無いが黒川と一緒に政治家のステータスアップ計画としての改革に関わる事になっている。

坂田の弟子の黒川も勿論黎人の傘下に当たるのだ。これからも冒険者の地位向上に全力を注ぐ事になるだろう。


「心配しなくても今回の件で冒険者になる人が増える。未来はもっとステータスが高い人間がたくさん出てくるさ。

俺も、負けない様にステータスを上げておかないとな」


「おいおい、魔王が大魔王になってしまうやないか!

まあ、魔石が自動で手に入るシステムを完成させてるしなあ。おー怖」


兄弟弟子同士、周りが聞いたら顔を青くする様な、2人にとっては笑い話をしながら久々に酒を飲み交わすのだった。





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