129話晩餐会

黎人とエヴァはイギリス入りした。

出迎えてくれたのは黎人の母親とレベッカ、そして母の再婚相手であるレベッカの父親。つまり義父である。

エヴァの家族は騒ぎにならない様に城で待っている。


「本当は黎人のお友達も来たいと言っていたけど大勢で来るのもあれだから家で待つ様に言ってあるわ。あとでご挨拶しなさいね」


そう話しかけて来たのは黎人の母親うたうだった。

いつまでも黎人を子供扱いするほんわかした人で、多分友達とは先に黎人が所有する家に入居している弟子達の事だろう。


「わかったよ、母さん。久しぶり」


「ええ、お帰りなさい。それで、そちらが?」


そう言って譜が視線を向けたのが一緒にイギリスに来た谷口一家だった。


「そう。連絡した谷口さん。案内頼める?

俺は先に挨拶に行く所があるからさ」


ポンとエヴァの頭に手を置きながら黎人は言った。

王女様をこの様に扱える人間は少ないだろうが、エヴァは文句も言わずに視線を黎人の方に向けただけだった。


谷口一家を母親と義父に任せた後は、王宮へ向かうのだが、その前に…


「黎人!エヴァ!お土産は?」


「レベッカさん、それは黎人が__」


レベッカはエヴァの話を最後まで聞かずにギュンという効果音が聞こえそうなスピードで黎人を見た。

尻尾をブンブンと勢いよく振って、口からは涎が垂れていそうな幻覚が見えそうである。


黎人の空間魔法は風魔法を使用して真空を作り出す為、食べ物が腐りにくい。

ファンタジーの様に時が止まればいいのだが、そうはいかないのがこの世の中だ。


そう言った理由でレベッカへのお土産食糧は黎人が持って来ていた。


「頼まれた物は買って来たけどイギリスに《星空のレストラン》が来てるだろ?アイツらに頼んだ方が美味いだろうに」


「バカね、お土産はチープな物も必要なのよ!あー、いらっしゃい私の空弁達」


レベッカはいつもの調子である。



お土産をレベッカの空間魔法に移した後、黎人達はエヴァの家族、つまりはイギリスのロイヤルファミリーが待つ王宮へと向かった。



王宮では、晩餐会の用意がされていた。晩餐会と言っても畏まった物ではなく、一般家庭のダイニングテーブルを大きくした程度のテーブルをホームパーティーの様に囲んで座った。


用意された食事はローストビーフと野菜がゴロゴロのクリームシチューで、《星空のレストラン》が用意したらしく、プロポーズを試みた時に案内してくれたウェイターが暖かいクリームシチューを配膳してくれた。

黎人が「ありがとう」と声をかけると、無言で丁寧なお辞儀をして去っていった。



「さて、黎人よ、よく来てくれた。エヴァも無事帰ってこれて何よりだ。

この料理だがな、黎人が来るという事で《星空のレストラン》に依頼させてもらった。

レベッカに取り次いでもらってな。

このクリームシチューは私のオーダーなのだ。この匂いがもうたまらん」


この途中から威厳が飛んでいった男がイギリス王太子アレキサンダーである。


「あなた、途中から欲望が漏れてますわよ」


そう注意したのはニーナ王太子妃。


今日の晩餐会のテーブルを囲むのはアレキサンダー王太子とニーナ王太子妃、それからシャーロット、ジャック、ソフィアとエヴァの家族。


そして、カール王とエリザベートギルドマスターだった。


カール王は微笑ましく家族を見守る祖父の顔をしており威厳は感じられない。

エリザベートはそれを見てやれやれと頭に手を当てていた。


「あなた、いくら家族以外は黎人しかいないとは言え気を抜きです」


ニーナ王太子妃の言葉にアレキサンダーはタジタジであり、その言葉を聞いたカールも苦笑いだ。


その後、楽しい晩餐会が始まった。

王室とはかけ離れた家庭的な雰囲気だが、エヴァの兄弟はエヴァの無事を喜び、日本での生活や英雄である黎人の指導は厳しかったのかと質問責め。

黎人も日本より快く受け入れてくれた事に礼を言い、カール王やエリザベートからは国籍を移しての永住を誘われたりと話題は尽きなかった。


そうした和気藹々とした晩餐会の時間は過ぎていく。

アレキサンダーがクリームシチューを8杯もおかわりして動けなくなってしまい、ニーナから叱られると言った不名誉な内容は内緒にしておこう。

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