128話転落

総理大臣になり、イレギュラーな前総理大臣より前の総理大臣と同じ様に冒険者を悪役に仕立て上げる。いや、それ以上に冒険者排除の方向に日本を扇動する事に成功した。

これで、アメリカの援助の元、冒険者のいない国を実現していくはずだった。


もともと、歴代の政治家が冒険者が日本に増えすぎない様に政治をコントロールして来たのは日本を守る為だったのだ。


混沌戦争より前の時代、日本は武力を放棄した国だった。

しかし、当時の総理大臣は魔石と言う資源に目が眩み、自衛隊と言う戦争には心許ない戦力で混沌戦争に参加した。


その結果、日本は消滅の危機間近まで陥った。

軍役と言う制度の無い日本は戦争の為に武器の扱い方も知らない一般人を招集して戦争で減らしていった。


賢き者達が現れなければ滅びていたであろう。

それ程無謀な参戦だった。


そして世界ギルドと言う組織がきちんと機能し始めるまでの間、敗戦間近だった日本は他国の圧力に屈する事となる。


第二次世界大戦後、武力を放棄した様に、必要以上に冒険者、武力を保持しない様にと。


これは賢き者達を介さず決められた密約な為、正式な文書として残っている訳では無いが、この圧力のせいで、日本は冒険者後進国の道を歩み始める。


冒険者の成果を隠し、悪評を流す政治の始まりだった。


それでも個人が冒険者を目指す事を止められる訳度は無く、魔石を吸収し、ステータスが増えた人間は社会的な成功をおさめ、それに気づいた者もまた、冒険者になると言う様に少しづつでは有るが増えていった。


そして転機は数年前、日本からSSSの冒険者が誕生し、個人戦力としては大国と並んだ事により、以前より冒険者差別に疑問を抱いていた前総理大臣により、冒険者の地位向上を掲げた政策が行われる事になるが、内部の反発により上手くは進まなかった。


そして、その政策の最中、政策の要であったSSS冒険者が世間に認知される前に引退してしまった。


それからは有安の計画通りに進み、有るべき日本を取り戻す為に画策してきた。


そして、総理大臣に就任して冒険者排除の最終段階になって想定外のオンパレードだった。


まず、来年度国家予算の減少。

冒険者を追い出す事に躍起になっていた為に、歴代の政治家達がなぜ冒険者を排除するのではなく、地位低下に留めていた意味を理解していなかった。

日本の魔石取得にかける税金は45%。近年前総理大臣が冒険者地位向上の為に反対を押し切り下げる前は55%だったのだ。

これは世界で1番高い税金である。

他国で言えば世界ギルドが取る25%に習う傾向が強い為、25%前後、国によれば国民の場合は所得税のみの国さえあるのだから日本の魔石にかける税金は特別高いと言える。


だから生かさず殺さず、冒険者にしかなれない様な粗暴な人間に窓口を開き、悪評を流すと共に税金を吸い取り続けて来たのだ。


しかし、排除に乗り出した事で高ランクの冒険者は海外流出し、魔石による税収は激減した。

そして、高ランク冒険者という所得の高い人間が海外移住した事により、税収は激減と言う言葉では足りないほどに減ってしまった。


そうなると、政府の取る行動は残っている国民一般人に対しての増税である。


そして、1番深刻なのはエネルギー問題である。

魔石というエネルギーが現れる前と比べて、今の家電などに使われる電力エネルギーは5倍である。

これは魔石という資源で有害な物が発生しないエネルギーが当時の10倍以上に確保できる様になった事。それにより電気料金が激安というまでに下がった事。

そして問題視されていたCO2などの障害がなくなった事により電力を犠牲にして品質を上げた結果である。

節電を考えなければ品質を上げながらも価格を抑える事も可能である。


なので当初予定していた魔石を使わない過去の発電に戻すという方法では必要な電力は確保できないのである。

そして、火力発電などの発電施設を再稼働させた場合、海外からの経済制裁などにより、輸入に頼っている日本は食糧さえも足りなくなるのではないか?と指摘されてしまった。

それに、当てにしていた人工石油も、冒険者が関わる企業だった為に今の日本に卸す事はしないし、日本を条約違反にする事にもなると断られてしまった。


風力や水力、太陽光と言った発電は稼働させているが、微々たる物だ。

今は日本に蓄えられていた電力と、昨年度の魔石が世界ギルドから支給される分は確保できるが、今までの様に湯水の如く使える訳ではない。

なので、計画停電など、節電を呼びかけているが、国民の不満は募るばかりだ。


「く、こんなはずでは…

どう言う事だ?」


私の計画は順調に進んでいたはずだった。

有安団蔵は悔しそうに机を叩いた。


世論は自分に味方し、支持率も勿論高かった。

それが、ある動画が出て本当に冒険者排除はすべきなのかと世間が疑問を持ち始め、そして

それに付随する様に冒険者が居なくなった影響が国民の目に見え始めた為、支持率は暴落し、テレビでは日本を滅ぼす政策の様に取り上げられている。


耳に入ってくる情報が変われば人の意見など簡単に変わってしまった。


狂信者の様に冒険者排除のデモをする人間の方が今では悪者のようだ。


そして、冒険者排除の政策で的にされるのを嫌って免許を返納した粗暴な元冒険者のせいでスラム街の様なスリや恐喝などといった犯罪が増え始めている。


こうして日本の治安はどんどんと悪化していく。















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