88話思惑
和馬と孝久はダンジョンから脱出する為にダンジョンゲートへ向かって走っていた。
「か、和馬、お前っ」
「今は何も考えずに走れ!」
和馬の言葉に孝久は頷くとそれ以上何も言わずに走り続けた。
和馬は舌打ちして後方を見た。
志歩を囮にしたおかげで追ってはない様だ。
まあ孝久は後で共犯だと脅せばなんとかなるだろう。
志歩の驚いた顔は笑い物だったが俺の為に死ねたんだし本望だろう。
正直繋ぎの彼女だったわけだし少しベタベタして来て鬱陶しかった。
その癖身持ちが固くて先に進めなかった。まあ、俺も日々のダンジョンの疲れが溜まって最近は手を出そうとしなかったのだが。
これからの人生を成功すれば志歩位の女なんていくらでも居るわけだし、いや、俺にはもっと相応しい女も居るだろう。
それよりもギルドにどうやって報告するか考えておかないとな。
プライドとしては許し難いが自分達の実力にそぐわない所へ行ってしまったが為に仲間が殺されて逃げて来たと言うのが常套句か。
そんな冒険者はいくらでも居るだろうしギルドもそこまで詳しく聞いてこないだろう。所詮はお役所仕事だ。
そんな思考を巡らせながら和馬はゲートへと走った。
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「2人とも、冒険者続けてたんだね」
ギルドまでの帰り道、恐怖が少し落ち着いたのか志歩がそう話しかけた。
「ええ。自分の為に続ける事にしたの。あの時とは違って冒険者をする意味はあると思ってるわ」
あの時とは翠がパーティを抜けた時のことだろうとアタリをつける。
「そうなんだ。楓も?」
「僕もそうかな。信用できる人に出会って今まではGクラスダンジョンで指導を受けてたんだ」
「そうなんだ。じゃあもし今日じゃなかったら私は…」
志歩の声が沈んだのを察して楓は慌てて違う話題を話し出した。
「やっぱり何も知らずに冒険者をして行くのってやっぱり無謀でさ、しっかり指導してもらってよく分かるよ。
志歩も、夕暮れ塾だっけ?指導してもらったら違うだろ?」
最近接点の無かった志歩との話題に困ってそんな話題を振ったのだが、明らかにデリカシーに欠けた質問である。
ため息を吐いた翠がペシリと楓の尻を叩いた。
「痛っ」
そんなに強いものでは無かったが反射的に楓はそう漏らす。
翠の攻める様な顔を見て、楓はハハハと苦笑いを漏らした。
その2人のやり取りを見て、クスクスと笑いを漏らした。
「変わったね、2人とも。ちょっと前まではそんな風にできる関係じゃ無かったのに」
私も、そんな風に彼と過ごしたかったのにな。
その言葉は志歩は口に出さなかった。
「夕暮れ塾は最悪だったよ。物凄いスパルタでさ。本気で冒険者を仕事にする人ならそれでも良いんだろうけど私は大学生のバイト感覚だったからさ。あの時の翠の言う通りだったかも。来月は更新しないつもりだったし。
ああ、そう考えたらこれまでの受講料とかめちゃくちゃ勿体無いかも!」
から元気だと分かる志歩の言葉に、楓と翠は志歩が気を使ってくれたのだと分かった。
その後は、当たり障りのない会話をしながらゲートへの道を歩いた
ギルドに帰って来たら、受付に行かなけれならない。
成果報告はパーティの代表だけで良いのだが、今回志歩はパーティではない為に別で向かわなければならないし、1人にするのは気が引けた為、楓と翠は片方が成果報告をするのではなく、3人で受付へと向かった。
受付にて事情を説明すると、受付嬢は慌てた様子で上司であろう人を連れてきた。
そのギルド職員にもう一度事情を説明すると、志歩が今、死亡届を和馬と孝久に書かれているのだと驚かれた。
ダンジョンでの死亡の場合、パーティに死亡届。これは本来の死亡届では無く、ダンジョンで死んだ事を家族に知らせる為の届出である。を書いてもらうのだが、本来冒険者免許に記録されている情報を解析などした後に書いてもらうのだが、時期にもよるが死亡者が多いと仕事が溜まってしまう為、残業を無くす為に省略、もといなあなあになっている為にこの様な状況になっていた。
ギルド職員は慌てて死亡届が出されるのを止めに向かった。
慌てて行ってしまった為に3人は取り残されてしまう。
その後は残った受付嬢がこの後の事について説明してくれる。
別室に行って、事実確認を行うそうで、受付嬢に案内されて3人は別室へと向かうのだった。
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