78話方針変更

ザンっと横薙ぎに剣を振るった。

邪魔にならない様に一つにまとめられた髪が翻り、目の前の鹿の様な魔物の首を薙いだ。

致命傷を与えた様で魔物はその場でドサリと倒れた。


後ろからパチパチと拍手の音が聞こえてくる。


「別に今までの魔物より弱いんだから土方くんでもこのくらいできるでしょ?」


「そうなんだけど、なんか、かっこいいよ」


仲睦まじく話す話す2人を黎人は微笑ましく見守っている。


素直に褒められた事が恥ずかしかったのか翠は話を逸らす為に黎人に話しかけた。


「どうでしたか?」


「問題なく綺麗な太刀筋だと思うよ。だけど攻撃した後の隙があるね。1人で連撃する事に慣れていないみたいだ」


「なるほど、攻撃後の隙ですか。

でも、弱い魔物で特訓して意味があるんですか?強い魔物と戦った方が経験になる様な気がするんですけど?」


黎人は頷いて質問に答える。


「弱い魔物からでも魔石は取れる。魔石を吸収すれば地道でもステータスを上げる事ができる、ステータスを上げれば思考スピードも上がって強い魔物にも対応する事ができる。

別に危険な魔物と戦えば強くなる訳ではない。無理をして強い魔物と戦えば怪我をする事は免れないだろう。怪我が大きければダンジョンに潜る事が出来なくなるかもしれない。

そうしたらその期間は結局魔石を吸収出来ないんだ。そのロスの事を考えるなら初めはゆっくりでも地道に、怪我のない様に。そして、強い魔物と戦わなければいけなくなった時のために、体に動きを覚えさせた方が良いんだ」


「なるほど。だからGクラスダンジョンなんですね」


「それは俺が冒険者免許を返納したからだな。

でも、Gクラスダンジョンだって最深部はFクラスダンジョンの初めよりも強い。だから、しっかりとGランクダンジョンで、基本を知った方がいい」


楓もそこは疑問に思っていた様で、翠と共になるほどと頷いている。


「でも、春風さんって免許を返納してるんですね」


「そうだな。もう冒険者でなくても大丈夫なくらい稼いだし、免許を持っていれば無茶な依頼なんかも来たりするからな。

キッパリ辞めたんだ。だけどお前達が立派な冒険者になる位までの指導はできるから心配するな。

それで、翠はインナースーツに違和感はないか?」


「ありますね。今までの防具みたいに動きの阻害にならないし、何より重さを感じないので逆に違和感があります。これでちゃんと防具だなんて、凄いですよね」


「まあそこそこいい物だからな。

あとは、楓。今日の朝の指導だけどな、一回忘れようか」


「え?忘れるんですか?」


朝の時間しっかりと指導してもらったはずなのにそれを忘れろだとはどう言う事だろうかと楓は戸惑っている様子だ。


「お前の戦い方は決定的なところで攻撃を引く癖があったが、翠の戦い方を見て納得した。

お前の戦い方は突っ込みすぎる仲間をフォローする為の動きだな。

これからは翠と2人でバディとして成長していく事を考えると今までの動きをベースにした方がいい」


楓は《バディ》と言う言葉に反応して顔を少し赤くした。


「まずは2人とも連携を意識しながら魔石を吸収してステータスを伸ばすところからだな。

その過程で必要な連携の方法とかを指導していこうか。それじゃ、もう少し奥に行こうか。

2人ともFランクを探索していてこの辺りは余裕すぎるみたいだし」


黎人は2人の指導方針を決めると、2人を連れて次のエリアへと移動して行くのだった。



___________________________________________



ここは、嵐山にある京都第四ギルドの職員用更衣室。業務を終えた受付嬢2人が着替えをしながら世間話をしていた。


「ねえ、なんかうちのギルドであのゼロが私塾を開いてるって噂しってる?」


「あー、あれね。無理でしょ。そもそもゼロは冒険者引退して免許返納してるって発表あったじゃない?冒険者免許が無かったらまずギルドで会議室借りれないでしょ」


「そうだよね。なんでこんな噂が出たんだろうね?」


「それより帰りにさ、飲みに行かない?」


「いいねー」


着替え終わった彼女達はそのまま退勤して行った。








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