76話その頃の大学

「なあ和馬、翠が電話に行ったっきり帰って来ねえよ」


俺は友人の言葉に「そうだな」と相槌をうちながら読んでいる本のページをめくった。


「やっぱり電話に出る前に昼ご飯に誘っておくべきだったか?」


そんな事したら更に嫌われるぞ。と思うのだが、それを本人には言わない。

言えばこの王様気質な友人の機嫌が悪くなる事は明らかだからだ。


この友人は本当に友人だ。

性格さえ理解しておけば思った様な行動を取ってくれる。そこに誘導するのは簡単である。

まあ、たまに思っても見ない行動をするので気が気では無いのだけど。


興味があって友人に冒険者活動の事を聞いた所、トントン拍子に話は進み、パーティを組む事になった。

まだ駆け出しではあるが、普通にバイトするよりは稼げていると思う。

友人がゼミの1人を狙ってたみたいなので、アドバイスすればゼミのメンバーでパーティを組む様になった。

そのおかげでそこそこ可愛い彼女もできた。

友人が狙っている女性の方が可愛く魅力的だが、友人との間に波風を立てるのもアレだし、性格的に我が強いので彼女にするには向いていない。

今の彼女は俺に惚れているし、僕の言う事を聞いてくれるいい彼女だ。


友人の思わぬ行動のせいでパーティメンバーが2人減ってしまったのは誤算で、これからの冒険者活動に支障が出るのかと心配ではあるが、友人が持って来た夕暮れ塾で学べばそこも取り返せる計算だ。


友人の言葉だけでは心配な為、他の参加者にも話を聞いたのだが、この夕暮れ塾を開いている人物は黄昏の茶会と言う冒険者のトップクランのリーダーで、怪我の為に冒険者活動は引退したのだが、後輩の育成の為に冒険者の為の塾を開いているらしい。

超有名人な為に大きく宣伝してしまうと応募者が殺到してしまい、収拾がつかなくなってしまう為、ごく少数だけが先着で受講できるのだとか。

東京では同じ黄昏の茶会のメンバーが他の塾を開いているみたいだし、そこの出身者は東京では一目置かれるみたいだ。


そんな貴重な参加権を持って来てくれるなんてほんと、お前はいい友達だよ。


「なあ、このまま戻って来なかったら荷物を届けてやった方がいいよな?家まで届けてあげようかな?」


「いや、今日は大学が終わったら夕暮れ塾の初講義があるだろ?

それに、家までってお前、知らないだろ?」


友人は知ってるけど。とも言いたそうな顔でこちらを見てくる。

まじか。あの態度だと家に招く様な間柄では無いはずだからどうやって知ったのか。

友人の行動力にひいてしまっている自分がいる…



「そうか。今日は初講義だったな。楽しみだな、和馬」


家に行くのは諦めた様でホッと胸を撫で下ろす。

夕暮れ塾の初講義に胸躍らせる友人を見て、本当に単純な奴だなと自然と笑顔になるのだった。



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