59話女の素顔

昨日、彼女、矢野美代に言われた事で、半ば放心状態のまま、生気の抜けた顔でふらふらと出社する。

クローゼットの中の綺麗なスーツのストックはなくなり、ヨレヨレのシワのついたスーツが幸薄そうに見えてしまう。

いつものピシッとしたスーツは家事のできない身だしなみを気にする元妻が、クリーニングだけは欠かさず出していたのだが、この男の知るところではない。


出社して、いつもは自分の部署に行く前にドリンクスペースで美代と談笑をした後に向かうのだが、今日はそこを見て誰もいない事を確認すると、ため息を吐いて自分の部署へと向かった。


まあ、そこへ行ってもする仕事もなく、今日からは楽しみも無いのだから考え事にふけることもできないのだから、行く意味さえ見失っているのだが。


鞄を席の横に引っ掛けて無気力に椅子に座った。

すると、俺の出社を待っていたかの様に隣の席の同僚が話しかけてきた。


「相澤さん、なんかギルドマスターからの呼び出しみたいですよ。なんかやらかしたんすか?あれほど次は無いからここで金だけもらって趣味に勤しめってアドバイスしたのに」


悪い予感しかしない。昨日の美代さんの捨て台詞が頭をよぎる。

俺は、逃げ出したくなったが、そうもいかず、思い足取りでギルドマスター室へ向かった。


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「全く、少しは落ち着いたらどうなんだ。君は」


「ちゃんと考えて無能部署ので遊んでるじゃ無い。

だけど、男って単純よね、ちょっと猫被って持ち上げてあげれば簡単に落ちるんだもの。まあ、人生うまくいってないヤツに限るんだろうけど」


はあ。と私はため息を吐いた。

私の名前は川田学。この愛知第四ギルドのギルドマスターをしている。

悩みの種は今ここにいる妻だ。出世の為に元上司の娘を押し付けられたのだが、性格がとりあえず酷いの一言だ。

まあ仕方がない。出世の為に愛の無い結婚式を選んだのは私はなのだから。


不幸中の幸いなのは、彼女は猫を被るのが非常に上手く、周りには淑やかな妻を演じてくれているので仕事はやりやすいところか。

ああ、彼女には戸籍上は仕方ないが、普段は私の苗字を名乗って欲しく無いと言っているので職場では旧姓を名乗っているので私達が夫婦だと知らない職員も多いだろうが。


ともあれ、ここは愛知の中でも不人気なダンジョンで、第一から第三に比べて冒険者の質も低ければ掃き溜めの様な部署もある。

そう言った人を引っ掛けて遊ぶのがこのあばずれの悪癖だ。


そして、後始末を俺に回してくる。

こんな妻と結婚してまで手に入れた役職ギルドマスターを守る為に世間体だけは取り繕わなければならない。

気づいてる者も居るだろうが、老後までこの地位に縋りつければ、熟年離婚でもなんでもすれば良いのだから。



今回も、このおんなは問題事を持ってきた。

したたかなのはこちらが有利になる様な証拠を持参する所か。性格は悪いが馬鹿ではない。


まあ、こうやって罠に嵌められる奴らが居るからこの妻に馬鹿な金を使わなくていいのだがな。


そんな事を考えていると、朝から呼び出した犠牲者いけにえがドアをノックした。









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