40話学校
亜桜紫音は三重から帰って来てからずっと、学校には行かずに施設内の自室。ではなく、黎人が用意したホテルの一室で勉強する日々を送っていた。
紫音が自分の中に押し込めていたいじめの問題をあの日、一緒に院長の奥村に説明した事で奥村は学校に連絡をしてくれた。しかし、学校の対応としては「慎重に調査致します」の一言だった。
その為、初めは施設の自室で黎人が用意したテキストなどで勉強をしていたのだが、やはり児童養護施設。高校卒業までの身寄りの無い子供達が集まって暮らしている。
なので紫音が1人学校へ行かない事に低年齢層の子供達から不満が上がり、学校に行きたくないと言った声も出始めたのだ。
なので、一応は学校に行ってると言う程にして、このホテルの一室に登校して勉強に励んでいる。
ただ、一つ紫音が黎人に言いたい事があるとすれば、部屋が豪華すぎると言う事だ。
紫音に与えられた部屋は黎人が泊まっているホテルと同じホテルの別室だった。
勿論、黎人が泊まっているホテルなのだから安いなんて事はなく、名古屋で1番の高級ホテルだ。狭いビジネスホテルとは訳が違う。
黎人からは部屋の中は好きに使っていいし、ルームサービスも自由に使っていいと言われている。
初め、ここに来るまでにサンドイッチなど買ってきたら、勉強を見に来てくれる黎人さんに遠慮せずに頼めとメニュー表を広げられてしまった。
今でも、ルームサービスを頼むのは緊張する。
このホテルに入るだけでも緊張するのに更にはルームサービスまでも…
その事をなるだけ考えないようにしながら、紫音は学校の勉強では無く、黎人に与えられた課題をこなしていくのだった。
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ここは、愛知県にある県立高校の3年生の教室。
その教室の中に姦しく話をする3人の女子高校生がいた。
「だけど下手うったわー。まさかトイレ行ってる間にスマホ覗くとか思わないじゃん?
これって普通にプライバシーの侵害なんですけどー?」
「でも、ここまで隠してこれたのって普通にすごくない?才能感じるー!」
「スマホ見て、真実知っちゃった時の顔、皆んなにも見せたかったわ。顔面蒼白で、涙堪えて。でもあたしに何も言わずに教室出ていくの。
文句の一つも言えないとか、笑うわー」
3人が堂々とこんな話をしていても誰もが見て見ぬふり。
勿論、教師でさえも見て見ぬふりをする。
この学校に通う教員生徒は、少なからず紫音が虐めにあっている事を知っていた。
しかもその主犯格が紫音といつも一緒にいた
分かっていて、見て見ぬふりをしていたのだ。
そして、今回の
なぜ、そんな事になるのだろうか?
それは藤原萌香の彼氏である
冒険者と言っても
触らぬ神に祟りなしである。
萌香や緒方が一年生時、正義感の強い生徒指導教員が制服の乱れや素行を注意した事があった。
しかし、その教員は実害は無いまでも立っていた場所の後ろの壁を殴られ、そのコンクリート製の壁が見事にひび割れた。
顔の横を通り過ぎた見えないパンチと「次はないぞ」と言う言葉によって緒方に恐怖し、最終的には鬱になってその教員は学校を去った。
その出来事があってから、我が身に降りかからない様に皆、緒方達を避けて通るのである。
一発試験で免許を取ったDQN上がりの冒険者にありがちなのだが、ルールを自己解釈する等、きちんと冒険者法を覚えていないことが多い。
この緒方も、少し魔石を吸収して周りより強くなって、学校で怖い物なしになり、彼女をゲットして調子に乗っている1人である。
冒険者は一般人に手を出してはいけない。位は理解しているが、直接手を出さなければなんとかなると言った独自解釈のもと学校を恐怖で牛耳っている。
法律など事細かに覚えている生徒などいない為、いや、知っていたとしても緒方が本当に手を出さないのかなんて分からないので、表だって文句もいえないのである。
ちなみに、一発試験で冒険者になる者は、ステータスの規定はない。
一夜漬けでも筆記試験をパスして、運動神経や腕っぷしが優れており、Fランクダンジョンの入り口で死なない程度と判断されれば合格になる。
実は緒方は少し魔石を吸収してステータスが上がってはいるがステータス平均は3であったりする。
それでも、Fランクダンジョンの入り口付近でなら問題なく魔物を倒せる程度の能力で、なおかつ、学校では、向かう所敵なしという立場。
さらに、集めた魔石を全て換金すれば、高校生のアルバイトよりも多く稼げる為、普通の高校生よりも小遣いは多い。
その為、彼女である萌香は緒方を持ち上げ、周りに自慢する。
それで満足してしまっているのだ。
そう言った背景がある中、今の今まで紫音にそう言った事実を隠して、いい友達を演じながら1番近くで落ち込む様を見ると言った陰湿な虐めをして来た萌香は詰まらないと溜め息を吐いた。
虐めのきっかけは些細なことだった。
中学3年生で転校して来た萌香は紫音とすぐに仲良くなった。
性格も大人しく、足に不自由のある紫音と仲良くしてあげる。そんな私って優しいでしよ?と周りにアピールする為に打算で友達になった。
ちょっと優しくしてあげれば、友達の少ない紫音は私に懐いてきた。
そして同じ高校を受験するように進めて2人で同じ高校に入学してしばらくした時、クラスでちょっとカッコいいと思っていた男子がシオンのことを可愛いと言っていたのを聞いたのだ。
その時、萌香はすでに冒険者になった緒方と付き合っており、その男子が好きと言うわけではなかったが、かわいそうな紫音が男子からかわいいと言われるのが面白くなかった。
なんなら、自分を差し置いて可愛いと言われていた事に腹がたった。
たったそれだけの事で、紫音への虐めははじまったのである。
「あーあ。つまらないな。勇気を出して学校に出て来てくれないかな?でも、紫音ちゃんにそんな勇気はないよねー」
そう呟いた萌香の笑顔はいやらしく歪んでいた。
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