第5話 葛飾区Gランクダンジョン受付

 しかし、何事にも例外はあるものだ。


 ギャルを連れてやって来たGランクダンジョン。

 そこでダンジョン入場の為に受付にやって来た。

 Gランクダンジョンは冒険者資格無しで入れる最下級ダンジョンとはいえそこは行政機関。

 入場には手続きが必要である。


 なので受付にやって来たのだが…


「あれ?春風じゃん!」


 当たったのが、元同級生であった。


「聞いたよ、あんた香織に振られたんでしよ?まあ克樹かつきさんっていい男だしね。当たり前って言えば当たり前か」


 この元同級生、名前は忘れたが元カノの友達のギャルだったのは覚えている。

 しかし、仕事中に元同級生とは言え客にこの内容の話はいかがな物かと思う。


「まあ克樹さん紹介したの私だし鼻が高いよね!香織は美人だし。いいぶっけん紹介したわ!

 それに比べてあんたはなに?冒険者資格取り消されたんでしょ?

 こんなとこ来てないでちゃんとした就職口探したら?

 あ、わかった!またGランクからはじめて冒険者資格再取得しようとか考えてるんでしょ!

 ダッサ!やめときなよ、一発試験じゃなくて実績からなんて将来の目はないよ?

 あ!いー事考えた!」


 話はこちらの返答も聞かないままどんどん進んでいく。

 そして、受付側のキーボードを操作していく。

 ダンジョンに入場するには身分証が必要な為、冒険者カードが無くなった俺と初めてのギャルは個人カードを提出していたのだが、俺のカードだけを機械に差し込み気持ちのいい音を立てながら最後のボタンを弾いた。


「これでよし!あんたがまた冒険者資格を取れないようにブラックリストに入れといたから、あんたも大学出てるんだしさ、ちゃんとしたとこに就職しなって。高卒の私でもこうやって地方公務員にはなれたわけだしさ。

 ほら、貴方もよ?こんなおじさんに引っかかってないでさ、ギャルの私でもこうやって安定した仕事に就けたのよ。貴方も冒険者なんて考えずに勉強でもした方がいいわよ?」


 俺に向いていた矛先は連れのギャルにまで飛び火した。

 チラッと見ると手の色が変わるくらいに握りしめている。

 これは話を終わらせないと行けないな。


 そう思った時、元同級生の後ろからの女性が話しかけて来た


清水さん?しーみーずーさーん?

 貴方!仕事中になんて話してるの!ここは私が変わるから貴方は裏で書類整理でもしておいてちょうだい!」


 女性の笑っているが怒っているのが分かる言葉に元同級生は「はい!」と車が遠のいていくような音の言葉を残して脱兎の如く裏へ行ってしまった。


「職員が誠に申し訳ありません。

 ここからはわたくしが担当させていただきます。葛飾区ギルド部長の猿渡さるわたりと申します。

 本日はどのようなご用件でしょうか?

 失礼ながら先ほど冒険者資格と聞こえて来ましたのでそれに関する事かとは想像できるのですが、もう一度初めからお伺いしてよろしいでしょうか?」


 先程とは違い何とも丁寧な対応である。まあ、御役所仕事なので丁寧が当たり前ではあるのだが。


「ああ。俺ではなくてこの子が冒険者を目指していまして。

 俺は元冒険者なのですが、初ダンジョンが怖いらしくてその付き添いです。

 安全性を重視して実績免許を取らせるつもりですので入場許可をいただきたいです。

 個人カードはそちらに提出してあります」


 俺はそう言ってさっきの事は気にしていないと笑顔を見せながらまだ下を向いている隣のギャルの頭にポンと手を置いた。

 驚いたのかギャルは顔を上げてこちらを見上げた。

 しかし、カッコ悪いな俺は。

 対処しようとしたが言い出す前にあっさりと事を終わらされてしまった。


「ダンジョンの入場でしたか。

 …はい。個人カードもこちらにございますね。それではお二人の筆跡を頂いてもよろしいですか?」


 そう言って猿渡さんは2つのタブレットとペンシルをこちらに向けてから差し出した。

 個人カードにはたとえ事件であっても法的な手続きを何箇所かで通さなければ外れないプロテクトがかかっている。

 分かるのは表面に書いてある名前だけだ。

 本人確認とは筆跡と指紋を読み込み、カードの情報と一致するかを機械が判断するのである。

 勿論、照合し終わった後はその筆跡データなどは再利用できないようになっている。


 なので俺達はそれぞれ名前を記入し、タブレットに付いている指紋センサーにランダムに指定された左右の指を5つ順番にかざした。


 ピポン!という音が2つなり、認証が通った事を知らせてくれる。


「ありがとうございます。春風黎人様と柊火蓮ひいらぎかれん様ですね」


 ギャルの名前はカレンと言うらしい。


「それでは入場許可がありましたのでゲートへ向かってもらって大丈夫です。

 武具はどういたしますか?」


 どういたしますかとはレンタルの事だろう。

 ゲートの案内だとかレンタルの説明だとかを省略しているのは俺が元冒険者で引率することを伝えているからだろう。


「大丈夫だ。こちらでなんとかする」


「かしこまりました。それでは気を付けて冒険くださいませ」


 話が終わると、俺は火蓮に声をかけて場所を移動する。

 場所は更衣室前である。

 俺は、空間魔法の《アイテムボックス》からインナースーツを取り出すと火蓮に渡して着替えてくるように言った。

 火蓮は何か聞きたそうだったが、スキルの話は目立つ為、ダンジョンに入ってから教えてやると話を区切り、自分もインナースーツを着る為に男性更衣室へと向かった。


 インナースーツは一旦服を脱いで肌の上から直接着用する。この時、下着は履いても履かなくてもどちらでも大丈夫である。


 着込んだら手首にある時計型のリングのリューズにあたる部分をカチッと押し込む。

 するとインナースーツは体にピタッと吸い付き、時計型の部分を除いて透明化する。

 その後に上から来ていた私服を着るのである。

 今回はスーツではあるが。


 外に出てしばらくすると火蓮が女性更衣室から出て来た。

 しかし、インナースーツの正しい着方が分からなかったのかまるでジャージ姫の様に短くしたスカートからインナースーツが足首まで伸びているのが見えた。

 上半身もカーディガンで隠れて見えないが、フィットさせていないのでごわついて膨らんでいる。

 分かるものと思っていたが初心者にはわからないのは当然かと俺は笑いながらすまんすまんと謝ると時計型部分を操作してフィット、透明化させた。

 ダンジョン技術に驚いたのと教えてなかった事でやってしまった恥ずかしさと怒りがあるのか物言いたげな複雑な顔をしているが、長くなってもあれなので、全てはダンジョンに入場してから聞くと聞き流してダンジョンゲートへと向かった。


 途中何もつけてない様に見える俺達をカーボンプロテクターや軽鎧をつけた入場者達にジロジロと見られたが、確かにここで冒険する人から見たらインナースーツは見慣れないものだろう。

 上級冒険者達が使う、最低価格が5000万はする最高級防具なのだから。

 まあ、そんな事、聞かれなければ言う必要もない。

 面倒見ると決めた子が死なない事が最優先である。


 そして俺達は、葛飾区ギルドGランクダンジョン通称木こりのはらっぱへと入場した。

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