龍になった童の話

紫鳥コウ

 あるよく晴れた日のことである――筆者は暢気のんきに「よく晴れた日」などと言ったが、都では政変が続けざまに起こり、そうしてまつりごとが乱迷しているうちに厄災にも見舞われ、朗らかな笑いも聞こえなくなれば、雅な音さえもどこかへ消えてしまった。のみならず、一滴の雨さえも見えなくなった。洛中の道に引かれた網代車あじろぐるまわだちは、癒えぬ傷のようにぱっくりと開いたままである。


 洛外もまた同様である。そこに住む者たちもまた、飢えや渇きをしのぐための方途を探すのに追われている身の上だった。


 今日もまた、ひび割れた田んぼを見通せる木陰で、ふたりの男が途方もなく座っている。木陰にいようが、とめどなく汗があふれてくる。田んぼ越しに見える遠くの村は、もういないかのように静かだった。


 ふたりのうちの片方が、枯れた田んぼの合間の道に、ひとりのわらべが歩いているのを見つけた。

「おい、あそこにわらんべが歩いているが、あんな身ぎれいな格好をして、いったいどこの者かね」


 ごくたまに吹く風にざわめきたつかしの樹にもたれて、目をつむっていた男は、ごしごしと腕で顔をふいて、相方が指し示す道の方へと目を向けた。


「どこにわらんべなんているよ。こんな日に出歩く元気なんてあるもんか。それも、身ぎれいな格好をして歩いてるやつなんかいたら、誰であろうと金目のものを奪ってやりたいくらいじゃ」


 が、もう一方の男の眼にはしっかりと、身ぎれいな貴族の子息のようなの童がうつっている。のみならず――


「ちゃんと見てみろ、太鼓を叩いて歩いているぞ」

「太鼓? 木の葉がこすれあってる音だろうよ。風くらいは吹いてくれるんだから、今日はめでたい日じゃ」


 炎熱地獄が空から降ってきたかのような暑さのなかでは、それ以上しつこく話す気もうせてしまったらしい。木の葉の合間から漏れてくるかすかな光さえ鬱陶しいとしかめっ面をして、ふたりとも眼をつむってしまった。

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