36:リュオンの目覚め

 三人で昼食を摂った後、ルーシェはサロンで二人の傷の手当てをした。


 救急箱を片付けて長椅子に座る。

 三人で話していると、リュオンとセラとメグが部屋に入ってきた。


 寝間着だったリュオンは服を着替えている。

 彼は頭に包帯を巻いておらず、両目を晒していた。

 金色の《魔力環》が浮かぶ青い両目を。


「あっ」

 リュオンたちを見てノエルが声を上げ、

「お! 目が覚めたんだな、おはようリュオン。良かったなーセラ」

 ジオは笑顔でセラに話しかけた。


「ええ、本当に」

 この世の終わりのような顔をしていたセラが笑っている。心底嬉しそうに、朗らかに。


「セラから事情を聞いたよ。皆のおかげで助かった。ありがとう」

 サロンの入り口に立ったまま、リュオンは深々と頭を下げた。


「私からもお礼を言わせて。本当にありがとうございました」

 リュオンの隣でセラも頭を下げた。


 どういたしまして、とルーシェたちは微笑んで応じた。


 リュオンとセラは向かいの長椅子に座り、メグは一人用の椅子に座る。


「……何があったかはセラに聞いてはいるんだが。実はいまだに実感が湧かないんだ」


 困ったような顔で顎に手を当て、リュオンは話し出した。


「おれの感覚としては、寝てたら物凄く不味い液体を飲まされた。最悪な気分で目覚めたら何故か部屋にセラとメグがいて、戸惑う暇もなくセラに抱きしめられて号泣された――って感じなんだよな」


「死にかけてた自覚はねーんだな」

「ああ。でも、事実として皆には迷惑をかけた。特にジオとノエルには、《魔女の墓場》まで行ってもらって本当に……」


「いや、オレらにはもう謝らなくていーよ。お前が元気になったならそれで十分」


 また頭を下げようとするリュオンに、ジオはひらひらと片手を振った。


「謝るならセラに謝ってやれ。リュオンがなかなか起きてこないから、『もう、ダーリンったらお寝坊さん★ いい加減起きないと可愛い寝顔にキスしちゃうぞっ★』的なノリで部屋に行ったら死にかけてんだぜ? 当時の心中は察するに余りあるわ」


 本当? という顔でリュオンが隣を見る。


「き、キスしようなんて思ってなかったわよ!?」

 セラは真っ赤になって慌てた。


「わかりやすく動揺してるわね」

「大当たりだな」

 ルーシェとジオは小声で囁き合った。


 ひとしきり話し込んだ後で、ふと思いついたようにメグが言った。


「ところでさ。ジオとノエルは予想より遥かに早く《魔女の墓場》から帰還したわよね。《オールリーフ》が偶然近くに生えてて良かったわね」


「いや、教えられた通り、山の麓で摘んできたぜ? な、ノエル」

「うん」

 頷くノエルを見て、メグは目をぱちくり。


「…………は? 冗談でしょ? いくらあんたたちでも、あの距離を片道四十五分で踏破するのはどう考えても不可能……いや、ちょっと待って? まさか最短距離を行ったの!? あの危険極まりない《雷電地帯》を迂回しなかったの!?」


 よほど衝撃を受けたらしくメグは声を裏返らせて立ち上がった。


 ジオとノエルは顔を見合わせてから、合図もしてないのに声を唱和させた。


「「突っ切った」」


「馬鹿なのッ!!?」

 メグは頭を抱えて悲鳴を上げた。


「いや、正真正銘の馬鹿だわ、信じられないッ!! 命知らずにも程があるわよ、 いままで《雷電地帯》で何人死んだと思ってんの!?」


「えー? 意外といけたよな?」

「うん。こうして生きてるしね」


「それはただ運が良かっただけに決まってんでしょーがっ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る