溶けていく米ドル札
派手に負けた。
そう、空港で時間潰しのため最後に遊んだスロットマシンで。
そもそも、2時間も余計な空き時間があるのが良くなかった。
結局、千ドルだけと決めていたはずが、さらに百ドル、また百ドル……とどんどんルーレットマシーンに米ドル札を飲み込ませていくこと数度。
結局、大きく勝つことはなく、マイナス千5百ドルまで減ってしまった時点で、残りも溶かしてしまおうか! と興奮しながら思ったが脳内セイジが必死で止めてきたので頑張って終わりにした。
まだスマホにはクラウドファンディングの支援金通知が入り続けていた。
いったいいくら集まることになるのか、怖くて見れなかった。
「あ。そうだ、支援者さんたちへの支援お礼送るとき、ラスベガスのお土産も一緒に送ろうっと♪」
ばら撒き土産向きのキーホルダーやボールペンならそんなに嵩張ることもない。
そうして、カレンの4泊5日のラスベガス旅行はちょっと締まらなかったけど終わりを迎えたのである。
「お、意外とカッコいいな!」
帰国した翌日、セイジの勤め先の弁護士事務所へ、カレンの元勤め先との交渉の最終結果の確認と、土産を渡しに来所した。
セイジに渡したのはブリキの横長のラスベガス看板だ。
真っ赤で如何にもアメリカ、という感じ。
事務所にはM&M'sとハーシーズ、それぞれのチョコレートの詰め合わせ・ラスベガスバージョンを。
こちらはカレンの一回り以上、上の世代にはよく受けた。どちらもアメリカ、ラスベガスといえばハードロックカフェと並んでアメリカ映画によく出て来るスイーツなので、男の人でもよく知っていたようだ。
カレンの元勤め先との交渉は、旅行中に弁護士先生がほとんど終えていて、退職金も慰謝料込みで数日以内に振り込まれるとのこと。
着金を確認したら、退職金等の金額が記入された給料明細が元勤め先から送られてきた後で残高照会を済ませた通帳と一緒に事務所にコピーを提出すれば、成功報酬12%を支払って完了となる。
「手付金も割引していただいたのに。成功報酬も割引いて貰っちゃって良かったんでしょうか?」
本当なら成功報酬は20%のはずだった。
「藤原君のスタッフ割だと思ってくれればいいよ。相手先とそんなに揉めることもなかったし、うちの事務所的には楽な仕事でありがとうって感じだね」
藤原の上司である所長の弁護士先生は、恰幅の良いお腹を叩いて笑っていた。
「あとは今後3ヶ月間、元勤務先とのやりとりが必要なら、うちの事務所が入るからね」
「何から何まで……ありがとうございます」
明日から、就職活動をしながらこの弁護士事務所のバイトをすることになる。
この日は他に話などもなかったので、所長とセイジを交えて軽く雑談した後でカレンはそのまま弁護士事務所を辞した。
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