おじさんたちにひたすら愚痴った夜

「カレンちゃん、会社は結局どうなったの?」


 夜の8時少し前に小料理屋ひまらやへ行くと、まだセイジは来ていなかった。


 今日の常連さんは、気の良いおしゃべりさんな団塊さんと、相変わらず仕立ての良い高そうなスーツ姿のご年配のソースさん、二人だけ。

 ソースさんの隣にはまた別の品の良いご年配がいて、ソースさんの連れらしい。


 カウンター席の彼らの隣に座り、店主のオヤジさんからおしぼりを受け取るなり、だいぶお酒の入った団塊さんが訊いてきた。


「結局クビですよ。昨日、警察沙汰になっちゃって。専務からお前が責任取れみたいな感じで即日解雇ですよ……やってらんないです」


 ラガービールをジョッキで一気飲みした。

 ぷはっと息をつくと、ソースさんの隣にいた、店の奥側に座っていた品の良いおじいちゃんが「警察沙汰って。何だそりゃ……」とビックリしたように呟いていた。


「聞きます? 聞いてくれます???」


 ちょうどそこでセイジも店に到着した。

 あとはもう聞かれなくたって話す気満々のカレンだった。




 いつもは一時間ぐらいセイジと一緒に飲食して解散の小料理屋ひまらやで、カレンは2時間ぐらい語りまくった。


 大半は「あの上司、ほんとくたばれー!」的な憤りと愚痴だったわけだが、カレンの勢いには元同級生のセイジも、店主のオヤジさんも団塊さん、ソースさんとその連れも相槌を打つだけで飲まれてしまっていた。


「部下宛の荷物を、同じビル内とはいえ社外で奪って許可なく開けた、ねえ……。それ、コンビニの撮影記録、押さえておいたほうが良さそうだね」

「一応、後から警察が押収したそうなんで、確認すればできるんじゃないかしら」


 ぐびっと何杯めかのビールをあおる。


「いやあ、とんでもない話だな!」


 カレンの被った被害の話があんまりにもあんまりなので、いつもお喋りなはずの団塊さんもそれ以外に言葉が出ないようだ。


「お、そろそろ十時か。俺はお先に失礼するよ、オヤジさんお勘定! カレンちゃんはハローワーク頑張ってな! あんまり落ち込まないようにね」


 元自動車会社大手勤めの管理職らしく、それだけ言い残して団塊さんは帰っていった。


「あ、もうそんな時間? セイジ君は明日も仕事よね、長々とごめんね!」


 男たちが聞き上手なものだから、ついつい語りっぱなしのカレンも慌てた。


「青山。うちの所長に話は通しておくからさ。明日以降、相談に来れる日の予定決めよう」

「ん、そうさせて」


 店主のオヤジさんに勘定してもらいながら、セイジと次の連絡のことを話した。




「お嬢ちゃんさ、結局のところクビにされた会社のことはどうするの?」


 こちらはカレンの話を聞きながら、ビールから日本酒に変えていたソースさん。


「会社へは、セイジ君の弁護士事務所経由で不当解雇への慰謝料請求するつもりです。やっぱり泣き寝入りはイヤですからね」


 そうして、バスの時刻表をスマホで確認しながら、カレンとセイジは帰っていった。

 元同級生の二人の家は、同じバスの路線なのだ。


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