もう一度君の手を握れるならば
残り9体。カナタ復活。2人ならなんだってできる。レーダーが9体同時に検知した。四方八方から敵がやってくる。最終決戦だ。赤緑青、各3体ずつ。青の接近が早そうだ。弾を銃に装填しながら、作戦を確認する。
「自分が2体赤を死ぬ気で仕留めます。楓は1体赤を確実に仕留めてください。赤の攻撃時以外は青の狙撃とシールド、いけますか?」
「世界ランカーをなめないでくれるかな。いけるに決まってるっしょ」
「信頼していますよ」
装填完了。至近距離に来ていた青に対してシールドを張りながら、順番に青を撃ち落としていく。青はコアを狙わなくてもよいので、シールドに集中しながらでもこの距離ならば簡単に撃ち落とせる。撃った後のリロードのタイミングで、次のロボットに狙いを定める。瞬く間に3体を戦闘不能にした。短時間で仕留めたことで、シールドの時間も節約できた。
一際大きな発砲音が響く。レーダーからは赤の反応が1つ消えている。楓が赤を仕留めた。このタイミングで赤がアサルトライフルの射程圏内に入った。すべての神経を集中させて赤のコアを凝視する。赤は移動スピードが速いので狙いを定めるのが難しい。落ち着け。こちらにまっすぐ来ているのだから、奴の進路と弾道が一直線になるように銃を構えればちゃんと弾は当たる。少し腰を落として、銃を構え直す。上下の高さは合った、次は左右だ。体全体を動かしながら、照準を合わせる。照準の十字の印が遥か遠くのほんの小さなコアを捉える。逃がさない。銃口を1ナノメートルたりともずらさないように引き金を引いた。命中。
カナタも2体目を撃ち落としていた。カナタが撃ったのなら爆音が鳴ったはずなのに、それすら聞こえないほどに集中していたようだ。
死と隣り合わせで戦っている今、不思議と強く生を実感していた。汗が首筋をつーっと伝った。残りは緑3体を残すのみ。緑のレーザー攻撃の射程圏内に入ったので、再びシールドの準備をする。
「カナタ、10時と3時の方向にシールド!」
「ラジャー」
いつの間にか緑のロボットたちは視認できる範囲に来ていた。今度は正確にシールドを2枚張ったので1枚目のシールドが威力を軽減し、2枚目のシールドがレーザーを吸収する。
「同時に11時の方向からも来ています」
「OK。カナタ、最初のシールドを上にずらして」
互いの死角を補い合いながら、ロボットの位置を教え合う。
「楓、最初の敵が移動しました。もう1枚、真上の攻撃に備えて」
二重のシールドでレーザーを無効化する。3枚のシールドを操作しつつ、着実にコアに狙いを定める。死神に心臓を握られながら、何とか1体のコアを撃ち落とす。1体を減らしたことで、操作すべきシールドが2枚になり負担が減った。カナタがここぞとばかりに、1体を撃ち落とした。
ここでナノチップからアラートが鳴り響く。シールドの耐久時間があと1分だ。このままではジリ貧だ。
「カナタ、この攻撃途切れたら合図でシールド解除して。一か八か、撃つ。死ぬときは一緒」
「死なせませんよ。約束したじゃないですか」
カナタが覚悟したように笑う。最後のロボットのレーザー攻撃が途切れた瞬間、シールドを解除し、すべてをかけてロボットを同時に射撃した。ロボットには2発とも命中し、ロボットは地面に落下したが、コアを正確に撃ち抜けたかは目視できなかった。やったか……?
コアに確実にとどめの一撃を打ち込むために、一歩踏み出して弾をリロードしたが一瞬遅かった。力尽きる寸前のロボットが口を開けた。喉の奥に銃口が見えた。全身のレーザー発射口が一斉にこちらに向く。このままでは道連れにされてしまう。咄嗟にシールドを張ったものの、レーザーはシールドで防げるが、実弾までは防ぎきれない。銃口とレーザー発射口が光るとともに、走馬灯が流れる。
初めて出会った日のこと、遺跡で首飾りを交換したこと、紅葉と夕焼けの中のカナタ、丘の上まで競走をしたこと、鐘を鳴らして海に魔法をかけたこと、そして星空の下で……。思い出はカナタのことばかりだった。
「楓、危ない!」
シールドを再起動したカナタが目の前に立ちふさがった。銃声が鳴り響き、カナタが倒れる。ロボットは死に際の一撃を放った後は自ら瓦解し、ガラクタの山となった。
「カナタ……!」
「……か……え……で……」
カナタに大急ぎで駆け寄った。シールドで防ぎきれなかった今までより強いレーザーが、カナタの上着を焦がし、ズタボロになっていた。カナタの上着は銃弾によって胴体の真ん中に穴が開いていた。抱き起こして呼びかけると、うつろな目でカナタが反応した。
「よかった……楓に怪我がなくて……えへへ、これでチャラです……」
弱々しい声で呟いた後、カナタが咳き込んだ。カナタの手を強く握って、大声で呼びかける。
「いやだ、死なないでカナタ!」
涙が止まらない。死なないでカナタ。死なないって約束したじゃん。この血も内蔵も全部あげるから生きて。カナタを失うことが怖い。カナタのいない世界がとてつもなく恐ろしい。カナタの手の温もりを永久に失うくらいなら、この心臓を神に捧げてもいいと思えた。
一緒にいると楽しい。毎日が煌めいて見えた。時折、意味もなく触れたくなった。ふいに見せる魅力的な表情にドキドキした。ロボットにさえ嫉妬した独占欲。
やっと気づいた。この気持ちの名前は、恋だ。本能なんて関係ない。恋をする必要性や必然性なんて関係ない。今更遅いとはわかっているけれども、カナタのことを愛していた。カナタの代わりなんていない。ほかの誰でもないカナタだから、生涯最初で最後の恋をした。カナタの唇が何か言葉を紡ごうとしたが、かすかな吐息だけが漏れて、ゆっくりと目を閉じた。
「カナタがいないと生きていけない!カナタのことが好きなんだ!」
今、救命処置すればまだ間に合うかもしれない。カナタのボロボロの上着を引き裂いた。
プレゼントしたペンダントの満月のモチーフの合金に銃弾がせき止められていた。間一髪で止まった銃弾は、カナタの綺麗な肌に傷一つつけることはなかったようだ。白いTシャツには血の跡は見えなかった。
「うー、頭ガンガンする。脳震盪を起こしたっぽいです」
「カナタ……無事……?」
ようやく状況がつかめてきた。ロボットの攻撃による衝撃で、ダメージは受けたもののペンダントのおかげで致命傷にはいたらなかったようだ。弾は貫通して、弾頭が0.1ミリほど見えていたが、月の形の合金にがっちりとはまっていた。合金がもう少し脆かったら、モチーフがもう少し小さかったらカナタは死んでいた。本当に、月の女神様が守ってくれたのかもしれない。カナタがペンダントの紐の部分を持って、目の前で銃弾のささった月を揺らした。
「こういう古典的な展開は、お嫌いでしたか?」
こちらの気も知らずに呑気なカナタを危うく殴りそうになったが、カナタへの恋心を自覚してしまったが故、殴れなかった。代わりに、壊れるくらい強く抱きしめた。
「心配させんな、バカ」
「楓、痛いです……一応怪我人なので優しくしてくれると嬉しいです」
「うるさいバカ……紛らわしいことする方が悪い」
「ごめんなさい。でも、」
カナタが何か大事そうなことを言おうとしていたので、体を解放して顔を見つめる。
「楓の言葉で好きって聞けて嬉しかった。今、人生で一番幸せです」
今までで一番キラキラした笑顔だった。ダメだ、カナタには敵わない。きっとこの先一生カナタに振り回され続けるのだろう。
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