第9話 みんなでお散歩

 ごはんを食べて、お昼寝をする。


 ティリスが作ってくれたおやつを食べてから、みんなで薬屋の外に出た。


「晴れてくれてよかったね」


 分厚い雲がウソだったかのように、澄み切った青空が広がっている。


 大通りや商店街、露天市など、人通りが多い場所をみんなと巡る。


「欲しい物があれば、なんでも言ってね?」


「「はーい!」」


 気分は、小学校の先生かな。


 温かい陽気の中をみんなで歩く。


 買い物客や店員、近所の人が、私たちを不思議そうに眺めていた。


「ジェフ。わたくしの旗を掲げてくださる?」


「うっす!」


 ジェフが大きな旗を掲げて、最後尾を歩いてくれる。


 旗には、伯爵家の三女――私だけが使えるチューリップの家紋が描いてある。


 先頭を歩くメイドと最後尾の旗。

 高級なドレスを着た私が、子供たちと戯れている。


 これ以上ないほど目立つよね。


(欠陥品の三女様?)


(本物だよな? 伯爵様に処刑されたんじゃなかったのか?)


(綺麗な服を着た子供は? なにもんだ?)


 私たちを見た周囲が、ざわざわしている。


 そんな人々を無視するように、私は老舗の風格が漂う肉屋の前に立った。


 店員の男性が、慌てて飛び出してくる。


「これはこれは、三女様。ようこそおいでくださいました。御用件をお聞きいたします」


「あら、ありがとう存じます。そうですわね」


 チラリと店内を流し見た後で、周囲の子供たちに目を向ける。


 近くにいた子の頭を撫でて、楽しそうに微笑む。


「弟に聞いたのですが、美味しいコロッケがあるのでしょう?」


「はっ、はい! アルツメスト様には、いつも、お世話になっております」


 アルストの本名なんて、久し振りに聞いたかも。


 あの弟がオススメする店だから、味はもちろん、安全面も折り紙付き。


「そのコロッケをわたくしの子供たち・・・・・・・・・・と側近にも食べさせたいのだけど、おいくらかしら?」


「!!!!」


 目を見開いた店員が、子供たちを見る。


 真新しい服や奴隷を示す首輪を流し見て、慌てて頭をさげた。


「かしこまりました! コロッケは1つで銅銭3枚です! お連れ様の分も含めますと……」


 周囲を見渡す店員を後目に、私は鞭で打たれていた少女――リンに目を向けた。


「13個買うと、いくらになるかしら?」


「銅銭39枚なので、中銅貨3枚と銅銭3枚です」


「そう。ありがとう」


 リンの前で膝を折り、彼女と視線の高さを合わせる。


「よくできました」


 猫を可愛がるように頭を撫でながら、私は幸せそうな笑みを浮かべて見せた。


「ティリス。お会計をお願いするわね?」


「承知いたしました。店主殿、案内を」


「はっ、はい!」


 弾かれるように駆けだした男性が、コロッケの準備をはじめてくれる。


 騒がしくなる周囲に見せ付けるように、私は子供たち全員の頭を撫でて回った。


「みんな、本当に可愛いですわ」


 やり過ぎかな? って思うけど、変に思われてもいいからね。


 ほどなくして戻ってきたティリスが、スカートを摘まみながら頭を下げた。


「コロッケの準備が整いました。しかし、こちらには会食の場がないようです」


「あら、そうでしたの?」


 うん。知ってた。


 路上での買い食いしたんだー! って、弟が自慢してくれたからね。


「でしたら、わたくしもこの場で頂きますわ」


 弟はギリギリ許されても、女性はさすがにはしたない。


 それがこの世界の常識らしいけど、青空の下で食べるコロッケは最高!


 揚げたて最高!


「承知いたしました。準備するように伝えて参ります」


「ええ。お願いね」


 澄まし顔のティリスとは対照的に、周囲のざわめきが大きくなる。


 信じられない。はしたない。

 やっぱり、そんな感じみたい。


 最後尾にいたジェフが、おもむろに口を開いた。


「お嬢様も、ここで食べるんですかい?」


「ええ。わたくしも、この子たちと一緒に・・・・・・・・・食べてみたいと思いまして」


 ジェフ! ナイスアシスト!


 心の中で親指を立てながら、聞き耳を立てる。


(欠陥品は、子供好きの変態貴族だったのか?)


(そうかも知れねぇな。あれは変態の目だ)


 酷い言われようだけど、一応は狙い通り。


 ティリスが持ってきてくれたコロッケを子供たちと一緒に頬張りながら、人混みの中を進んでいく。


 うん! サクサクで美味しい!


 でも、コロッケ1個が360円は高いよね。


 異世界だから仕方ないけど。


「リンは? コロッケは初めて?」


「はっ、はい! とっても美味しいです!」


「あら、本当に可愛いですわね」


 うふふ、おほほ、と笑いながら、リンちゃんの頭をなでる。


 なんだか、本当に楽しくなってきた。


 幸せそうな子供と触れ合う機会は、この世界に来て初めてだ。


「そういえば、みなさんの目印を忘れていましたわ」


 軽く周囲を見渡して、藁を売る店を指す。


「せっかくの機会なので、みなさんに編んで頂きましょうか」


 誰か1人でも出来れば御の字。

 そう思って藁を買い、みんなにコースターのような物を作って貰う。


 白い藁の下地に黒い藁を乗せて、右上に向かう矢印の模様も描いて貰った。


「みなさま、出来ましたか?」


「「はーい!」」


 私は作れないけど、子供たちにとっては簡単だったみたい。


 ティリス曰く、藁編みは冬の手仕事で、みんな慣れているらしい。


 本当に強い子供たちだと思う。


「みなさん、上手で可愛いですわ」


 ひとりひとりの頭を撫でて、出来上がった物を奴隷の首輪に付けていく。


 藁の編み物も普通に可愛いし、みんな似合ってる。


「それでは、今日はここまで。みなさま、帰りますわよ」


 そうして私たちは、周囲の注目を浴びながら、人混みを後にした。


 次の日も、その次の日も。


 私は子供たちを連れて、人が集まる場所を巡り続けた。


 そうして迎えた4日目の朝。


 牛車に乗り込む私の前を姉妹たちが通っていく。


「今日もお人形遊びにいくのかしら?」


「奴隷を着飾るなんて、ステキなご趣味をお持ちでしたのね」


 スクスク笑いながら、バカを見る目を向けてくる。


 牛車に乗り、伯爵家から遠ざかった場所で、私はニヤリと微笑んだ。


「噂のスピードが早くて、ほんとに助かるね。みんな、暇すぎでしょ」


 娯楽が少ない影響だとは思うけどね。


 馬鹿な姉妹たちも、報告してくれてありがとう。


「さてと。次のお仕事に進もうかな」


 今後の予定を脳内に描きながら、私は子供たちが待つ薬屋に向かった。


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