第2話 ダメですよねダメじゃないわよ

「せんぱーい、終わりました!」


 片付けるだけだった資料をちょっと真剣にチェックしているフリだけをして、私は周りについてきちゃいそうな同僚がいなくなるタイミングを見計らってから先輩に業務終了を告げた。


「ん。ご苦労様。それで?チェックして欲しいところはどこ?」


「あ、あのぉ、多分大丈夫かも知れません。来週もしかしたらお願いするかも知れません。」


「え、そうなの??まぁ、それならそれでいいけど。。」


「ああっ、お待たせしていたのにすみません!先輩、良かったら一緒に帰りませんか?お詫びにスタバでコーヒーでもごちそうさせてくださいっ!」


 勢いよく頭を下げて、約束をちゃっかり取り付けようとしてみた。申し訳なさそうにうるうるした顔をして見せたらきっと一緒に帰ってくれるはず。


「はは、いいよいいよ。奢ってもらうほどじゃないって。でもまぁ、途中まで一緒に帰ろっか?」


 やったー!きたー!うれしいぃぃ!


「ハイ!嬉しいです♡」



 駅までの道のり、先輩はカフェにも寄らず帰るつもりでいるらしいことに気づく。私は恋愛相手としてはもちろん、週末に二人で過ごす相手としても求められていないことに悲しくなった。


(でも、せっかくここまでこぎ着けたんだから、せめて今より仲良くなりたい。)


「えっと、友梨ちゃんって地下鉄だっけ?帰りの電車。私はJRだけど。」


「あ、私もJRです。でも先輩、、良かったらちょっとだけ一緒にお酒飲みたいです。週末だし、、。あ、でも彼氏さんとかが待ってたりしますか?」


 はい、きた!探らせていただきましたっ!お願い、フリーでいて先輩。。


「うーん、まぁいいけど?」

「ていうか、彼氏なんていないわよ。」


 ぎゃーーー!神様ありがとぉぉぉ!!!!


「え、じゃあ是非♡ 行ってみたい個室居酒屋があるのでそこでも良いですか?」


「私と飲んだって小言しか言わないんだからね?」


「えー、言われたいです♡」


 たくさん、意地悪されたい、、、二人きりで~!


 


 楓花先輩の視点


 居酒屋に着くと、落ち着いた雰囲気の店内にある個室に通された。私はこの可愛い後輩とここで二人きりで飲むのかと内心ドギマギしていたが悟られてはならない。そう思うとちょっとツンケンした言い方になってしまっている。


 20分くらいが経過した頃、私は生ビールを半分ほどしか飲んでいなかったが、友梨はカラっとグラスを空けていた。


「先輩~?お変わり何にしますか?」


 のぞき込むように顔を近づけて聞いてくる友梨が可愛い。


「ね、ちょっとペース速くない?まだ飲み始めてそんなに経ってないよ?」


「大丈夫ですよぉ。先輩、いつも飲み会でケロっとしているじゃないですかぁ。」


「いや、私は良いんだけど、貴方がペース速いって言ってるの!」


 まぁ、私と二人で飲みたかったみたいだし、こうやって楽しそうにされると悪い気はしないし、、。良いんだけどさ。


 そうして、1時間ほど、二人で煽るようにアルコールを飲み進めていったのだった。


 すっかり頬を赤らめた友梨はベロベロと言うほど酔ってはいないが、化粧室へ行くと言って個室を出て行き、戻るとなぜか私の横に座ったのだ。


「え、ちょっと、あっち座りなさいよ。」


「・・・先輩。。あのね、楓花先輩、、」

「私、もっと先輩と仲良くなりたいんです。」


 隣に座った友梨が切なそうな声でそう言うと、私の二の腕にコテンと頭を傾けて寄りかかってきた。私は自分の血が頭に上っていくのがわかった。


「え、って、ちょっと。じゅ、十分仲良いじゃない。二人で週末にこうして飲んでるくらいなんだから。」


 仲良くなりたいに深い意味はないと取りたい。じゃないと心臓が持たない。でも、


「違うんです。今よりもっとってことです。」


「は、はぁ?じゃあ、そうね、休みの日に遊びに行くとか?」


「それももちろんそうなんですけど、、あの、、お、泊まりとか、、したいです。ダメですか?」


 私の顔はもう真っ赤だったに違いないが、お酒のせいにできるはず。まだセーフ。まだセーフ。


「あはは、いいわよ。そのうちね?」


 なんて余裕そうに言ったけどダメよ!二人きりで夜過ごすなんて、取り返しが付かないくらい私がこの子に本気になってしまうじゃないの!考えただけでお腹痛いわよ!


「え、本当ですか?じゃあ、今日泊まってもいいですか?楓花さんのおうちに・・・。」


 友梨は場の雰囲気に流され、最初と違ってかなり本格的に楓花を口説き始めていた。楓花の二の腕に両腕でしがみつき、自分の胸を押し当てて楓花の顔を見つめる。勢いがついてしまったらしい。


「え、ちょっと今日は、、その準備とかしてないし・・・(主に心の準備)」


「はぁ、、そうですよね、、すみません。忘れてください。」


「え、ちょっと?そんなに簡単に引くんじゃないわよっ!あ!」


 思わず本音が出てしまった。


「え、なら行っていいですか?」


「ち、ちがうわよ!そ、そうじゃなくて、貴方、自分が提案したならしっかりプレゼンするのがセオリーでしょ!」


 なんかわけわからないビジネス根性語っちゃったわよ!


「と、とりあえず泊まるかは別として、私の家で飲み直すくらいは良いわよ!」


「えーやった♡ じゃ、店員さん呼んでチェックしてもらいますねー♡」


 やっちまったー!どうしよう、部屋汚くなかったっけ?ああ、どうしよう緊張する、、怖いよ、若い女の子怖いよぉ!(好き)

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