女装したクラスメイトのチャラ男くんが可愛すぎる。

郡ハル

佐藤隼人

1


 ―――残念なことに、この世には何事にも上と下がある。





 その事実に俺が気づいてしまったのは齢10の頃であった。


 幼稚園までは良かった。みんなバカみたいに笑いながらお遊戯したり餅つきしたり団子作ったり、そこに男女の垣根はあったが、人間として上だとか下だとか、そういったものは無かった。いや、女子の中ではあったのかも知れないが、年中半ズボンを履いていた鈍感な我々男には気づけるはずもなかったのだ。


 小学校に上がりそのままスクスクと成長した俺は、当時クラス一の人気者の駿とよくつるんでいた。俺たちはゲームの趣味が似ていたり好きなポケモンが一緒だったり、共通点が多かったのだ。駿はいつも爽やかな笑みを浮かべて俺のゲーム攻略話なんかを聞いてくれていた。


 その日も俺達は放課後にその時出たばかりの新作ゲームの話をしていたんだと思う。忘れもしない、2月14日だ。

 駿がトイレに行ってくると言って教室を出ていったのと入れ違いに、クラスの女子が教室に入ってきた。


「あの、」

「え?な、なに?」


 俺に話しかけてきたのは当時クラスで1番可愛いと言われていた美玲ちゃんだった。俺は自分の鼓動が急に高鳴るのを感じた。




 美玲ちゃんは1呼吸置いてから言った。




「……あの、駿くんに話があるから、帰ってくれない?」



 美玲ちゃんの眉間には大人のようなシワがくっきりと刻まれていて、俺を睨む眼光は異様に鋭かった。いつも教室の中でキャッキャしている姿とは似ても似つかない。

 俺は彼女のに睨みにただただ驚いて、その場をすぐに動けなかった。

 そうだ。ここで一目散に退散していれば、俺は今でも空気の読めない勘違い陽キャでいられたのかもしれない。



 いつまでもぼんやりしている俺にしびれを切らしたのか、美鈴ちゃんは「はあ」とため息をついた。



「……ていうか、なんで駿君ってこんなのとつるんでるの。全然釣り合ってないし」



 雷に打たれたような衝撃だったね。

 こ、こ、こんなの?!俺って「こんなの」だったの?確かに俺の顔って駿斗に比べたら平べったいよなぁ、とか思った事はあったにはあったけど!あったけど!


 俺が美玲ちゃんの言葉にフリーズしていると、トイレから帰ってきた駿が「なに?」と俺達の顔を交互に見た。美玲ちゃんが俺を一瞬睨んだ。これは、はよ帰れゴミ、と言っているに違いなかった。


「あ、俺、用事思い出したわ!帰る!」

「おい!隼人!?」


 俺は自分のランドセルをぐっと掴んで教室から逃げ出した。







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