隣の席の女の子に突然私猫になれるんですと告白された。実際に猫になってて慌ててるんだがどうすればいい。
マーチ•メイ
第1話
「私、猫になれるんです」
授業中、隣の席の女の子の口から漏れた言葉。
その小さな呟きは誰に拾われるでもなく授業中のクラスの雑音に消えていった。
高校2年生になってから一ヶ月が過ぎた頃の出来事だ。
仲のいい友達も何人か同じクラスになり、初対面だった奴らともある程度打ち解けてきた頃。
あいうえお順だった席の席替えにて、俺はくじ引きで窓際の後ろの席に運良く引き当て、隣にはクラスでも指折りの可愛い女の子、藍原茜が座ることになった。
隣と言っても少し席は離れている。
人が通れないくらいの少しの隙間だが。
俺の中での相原のイメージは大人しく真面目な女の子というイメージだ。
他の女子は多少の違いはあれど制服を着崩したりしていて、禁止されている化粧もしてくる子なんかもいる。
鞄には人形や流行りのグッズなんかも付けていたりする中、相原はそんな素振りは一切ない。
真面目に授業を受け、制服も着崩したりせずスカートなんかも膝が隠れる長さ。
化粧はしていないのに元の素材が良いからか目鼻立ちが整っていて愛らしい。
鞄には装飾品の類は一切ついておらず汚れも見当たらない。
さらりとした艶のある髪は染めた様子もなく、肩よりも少し長いくらい。
それをいつもハーフアップにしている。
そんな相原の口から「私、猫になれるんです」
という言葉が出た。
どうやら聞こえたのは俺だけみたいで相原の反対側の生徒は寝ている。
これは相原のボケなのか、それとも俺の空耳か?
ちらりと相原を盗み見る。
背筋はピンと伸び真っ直ぐと黒板を見ている。
その様子から先ほどの声は気のせいだと思うことにした。
あの相原がそんな冗談を言うわけがない、そう思うと変な緊張は抜けた。
緊張が抜けると現実が見える。
つまりは消されかけた黒板の文字だ。
俺は慌てて置いていかれないように黒板の文字をノートに書き写すことにした。
その俺の様子を、相原が愛らしい唇を前につき出し、頬を少し膨らませながら見ていることに気付かずに。
休み時間になると友人が席までやってきた。
こいつは居眠り常習犯だ。
「わりー前田ノート撮らせて」
「ジュース一本な」
「全授業?」
「一回の授業につき。 と言うかそれもはや学校にいる意味無いだろ」
「教室の机で寝ることに意味がある」
ドヤ顔でそう言ってのける上田を見て渡しかけたノートをそっと机の中にしまった。
「見解に相違があるようだな」
「待って見捨てないで!!」
「渡辺に借りれば良いだろ?」
「渡辺だとパンを買わせられるんだ」
「言うことはそれだけか?」
「授業一回につきコーラ一本。 これでいいか?」
「宜しい」
そう言って上田にノートを渡した。
「明日の授業までに返せよ」
「分かった分かった。次の現国の授業中に写す」
「……それってフラグだろ……」
次の休み時間には現国のノートを貸してくれと言ってから未来しか見えない。
自分の席に戻る上田の背中にそう呟いた。
昼休みになった。
今日は天気も良いし外で昼寝でもするかなと上田達に断りを入れて校舎の外に出る。
俺のように考えている奴らはそれなりに居たようでどこに行っても人が居た。
人が行きたくない場所はどこだろう。
そんな事を考え植え込みの間を通る。
植え込みは地味に色々引っかかるから通らないやつが多い。
その奥の方なら人が居ないんじゃないかと考えて進んだ。
案の定校舎から離れた奥の方には人気が無かった。
ここまで来ると植え込みを迂回して来るのも戻るのも時間かかるもんな。
それなら近場でのんびり過ごすよなと考え草の上にごろんと寝転がった。
あぁ……日差しが気持ちいい。
スマホのアラームを予鈴の5分前に設定し、うとうととまどろんだ。
しばらくするとアラームが鳴った。
眠気がまだ残るが体を起こす。
するといつの間にか近くに人が居たらしい。
……藍原? いつの間に。
藍原も近くの木陰で寝入っていた。
そろそろ予鈴が鳴る。
流石に起こした方が良いよなと声を掛けた。
「藍原そろそろ鐘なるぞ」
「ん……ん?」
藍原の目がゆったりと開く。
その様子を見て授業中の言葉を思い出す。
『私、猫になれるんです』
「藍原って猫になれるのか?」
真っ直ぐこちらを見られていないからか、そんな問いがつい口から出てしまった。
「……なれなぃ」
女の子特有の柔らかい声色の寝ぼけた声で返答された。
……なれないんかい!!
授業中のその言葉は何だったんだ。
やはり空耳だったのか、単純に藍原に弄ばれたのか分からんが、答えを聞けて満足し立ち去ろうとした。
藍原も起きたしさっさと戻ろう。
そう振り返ったら藍原の方から
「わっ!!」
と声が上がった。
何事かと見れば藍原が居た場所から藍原が消え黒猫が居た。
「……猫?」
さっきまでここに猫なんていなかったよな?
そう思い猫をじっと見つめる。
その猫は毛並みがつやつやした短毛種の黒猫だ。
成猫というには少し幼い感じがする。
しっぽが長く目が梟のようにまん丸だ。
目が合うと猫はパチパチと瞬きを繰り返していた。
首を傾げているとせっかく予鈴の5分前にアラームをセットしたのに予鈴が聞こえてきた。
「やべ……授業が始まる」
目をぱちくりさせた猫をその場に置き去りにし教室へと走った。
梟のようなまん丸だった目の理由がただただ驚いているだけだったとはつゆ知らずに。
午後の授業が始まっても放課後になっても藍原は教室に現れなかった。
体調でも崩して保健室にでも行っているのか?
そんな感じでさして気にも留めずにホームルームも終わったので帰ろうとした。
……そういやあの猫もういないかな。
隣の席の女の子に突然私猫になれるんですと告白された。実際に猫になってて慌ててるんだがどうすればいい。 マーチ•メイ @marchmay
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