最終話 隣の葵ちゃん(後編)& 数年後(おまけ) 

 子どもの頃から、作文をめられることが多かった。作文コンクールで賞を取ったことも何度かある。


 ――すごいね! 貴志くん、小説家になれるかもね。

 ――芥川賞とか受賞したりして。


 みんなに持ち上げられてすっかりその気になった僕は、家でこっそりと小説を書いてみた。


 なんだこれ、楽しい!

 

 今思えば、心にたまっていた思いを吐き出しただけの雑文だが、それ以来、僕は勉強の合間をぬって小説を書き続けた。


 高校を卒業すると同時に家を飛び出し、ひとり暮らしを始めた。

 これからは誰にも遠慮えんりょせずに小説が書けるし、時間だってたくさんある。きっと輝かしい未来が待っているはずだ。そう信じていた。


 だが、出版社のコンテストはどれも落選。一次予選すら通らなかった。


 やがて、僕には小説を書く才能がないんじゃないかという、恐ろしい考えが芽生え始めた。不安が黒いもやのようにまとわりつく。

 勉強のために、名作と呼ばれる小説やベストセラーの小説を片っ端から読んでみたが、自分の書いたものが駄作ださくだと気づかされただけだった。

 

 僕は、小説を書くのをやめた。


 バイト先のコンビニとスミレ荘を往復するだけの毎日。何のために家を出たのかわからなくなる。


 そんなとき、葵ちゃんに言われたんだ。


「中学生が主役の小説を書いてほしいの。できれば夏休み中に」

「そんな簡単に書けるわけないだろ!」


 唐突とうとつな申し出に動揺どうようした僕は、つい声を荒げてしまった。

 あのときの葵ちゃんの表情が忘れられない。


(きっと傷つけちゃったよなあ)


 大人げない自分が情けなくなる。

 よし! どうせ葵ちゃんしか読まないんだから、がんばってみるか。


 べつに主役は女の子じゃなくてもいいんだよな。中学生の男の子なら、やっぱり冒険ものか? 友だちと旅に出て、なぞの美少女に出会うとか。いや待てよ。タイムリープとかも面白そうだな――。


 なんだかワクワクしてきた。

 次々と想像の扉が開いていく。

 自分の世界がぐんと広がった気がした。


 出来上がった小説を、葵ちゃんは目をかがやかせて「面白かった」と言ってくれた。

 そのひと言が、自分でも驚くほどうれしかった。


 やっぱり彼女は素敵な女の子だ。僕に大切なことを教えてくれる。


 だけど、だんだん大人に近づいていくきみは、いつまでこんな僕のそばにいてくれるだろうか。




 ◆ ◆ ◆ ◆




 ~数年後~


「葵! 早く来ないと始まっちゃうよ!」

「わあ、待って待って! お母さん、ちゃんと録画してる?」

「もちろんよ。貴志くんの小説が初めてアニメ化されるんだもの。もう、嬉しくって! そういえば、貴志くんは?」

「知らない! 出版社の人たちと一緒に観るんじゃないの」

「あら、残念ね。でもいいじゃない。明日デートなんでしょ?」

「で、デートっていうか、ご飯食べに行く約束はしてるけど」

「あ、ほら始まるわよ」


 アニメのオープニング曲が軽やかに流れ始めた。




 ――――――――――――――――


 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 コンテスト用の「長編児童向けノベルの種」ということで、肝心の「溺愛」する前に終わってしまい、申し訳ありません。最後に少しだけ、彼らの未来をのぞいてみましたが、いかがでしたでしょうか?

 少しでも面白いと思われましたら、☆を押していただけると大変励みになります。

 

 続きが読みたい方はこちら

【長編版】スミレ荘の恋物語

https://kakuyomu.jp/works/16817330655855165268











 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る