神さまに直談判です!
「神に
「そうです!」
カティは『ふんぬ!』とばかりに両手に腰をつけて言い放った。
相手にものを頼む立場だというのに頭ひとつさげるでもなく、それどころか大きく胸をそらし、ふんぞり返っている。その態度の大きさが逆に、カティの決意の強さをはっきりと物語っていた。
『頼みを聞いてくれるまで殺されても動かない!』
顔どころか、その態度全体でそう主張している。
虹色の雲をまとった神霊の
失礼と言えば失礼な態度だったが、
そこは、
虹色の雲が積み重なり、ひとつの幻想的な城を形作っている場所。
――神さまに
そのカティの思いをぶつけるべく、フェニックスの翼によってやってきたところだった。
「正気か、そなた。人間ごとき
「
ふんぬ! と、カティは『威張り散らした』と言われても仕方ないほどの強気の姿勢でそう主張する。相手を怒らせてしまうのではないか、と、見ている側としてはハラハラしっぱなしの態度である。
カティは構うことなく強気の姿勢のままつづけた。
「生きて、この世界に存在している以上、この世界の存亡について口出しする権利はあります。自分だけで勝手に決めないよう、神さまに言いに行くんです。だから、神さまに会わせてください」
『お願いする』ではなく『言いに行く』と表現するあたりが、いかにもカティらしい。
天下無敵のチーズ令嬢は、神さま相手であろうとへりくだったりはしないのだ。
「言っておくが、
「神は決して勝手にこの世界の滅びを決めているわけではない。そなたたち人間の行動が大きく関わっているのだ」
「どういうことです?」
「それは……」
大胆にも――。
神霊の
「あなたに聞く気はありません。神さまに直接、聞きます」
『どういうことです? とたったいま、
ともかく、相手の言葉を
もし、
それを承知しているだけにカティのチーズ姉妹たちも皆、心配顔。とくに、グリフォンなどはハラハラしどおしで、一時もじっとしていられない様子だ。
はあ、と、
「
「フェンリル。フェニックス。リヴァイアサン。それに、合成魔獣……」
「誰が合成魔獣だ! あたしはグリフォンだ」
と、グリフォンはカティを真似たかのように両手に腰をつけた格好で、ふくれっ面をしてそう言ってのけた。
天下無敵のチーズ令嬢の影響力、まさに恐るべし、である。
その度胸に
「……グリフォンよ。そなたたちはこの人間に付き合うつもりなのか?」
「のじゃのじゃ。じゃからこそ、こうしておぬしのもとまで連れてきたのじゃ」
「リヴァさんもカティの言い分には一理あると思うのよねえ。この世界にいるのは神さまと神霊だけじゃないんだから。他の生き物の言い分も聞くべきなんじゃないかなあ」
「あたしはカティ姉ちゃんと
フェニックスが、リヴァイアサンが、グリフォンが、口々に言った。フェンリルが最後を締めるかのように女王らしい重々しい口調で語りかけた。
「
「むろんだ」
と、
「それが、
「その通りだ。
「神に逆らうと言うのか?」
「『逆らう』とまでは言わぬ。
フェンリルはそう言ってから、さらにつづけた。
「そもそも、世界を滅ぼすものとして
「ふむ……」
「あ、
カティが反射的にそう言ったのも無理もない。
そこにいたのは長い髪を大きく結いあげ、金と銀の髪飾りをつけ、袖と裾の大きく広がった和風の装束に身を包んだ巫女風の女性、一目見て『女神さま』と言いたくなるような女性だったのだ。
「
御子の姿となった
「どうやって、神を説得する? そのための方法を見せてもらおうか」
巫女の姿となった
カティは自信満々だった。その問いに対するカティの答えは常にひとつしかない。
「あたしの説得方法。それはただひとつ。チーズです!」
「チーズ?」
「そうです! おいしいチーズを食べればみんな幸せ。フッちゃんさんも、フニちゃんも、おいしいチーズを食べるために戦いをやめてくれたんです。だから、神さまにもおいしいチーズを食べてもらいます。そうすればきっと、この世界を滅ぼそうなんて考えなくなります」
「ふ、ふははははっ。おもしろい! それほどまでに自信があると言うのならそのチーズとやらを
「受けて立ちます」
と、カティは揺るぎない自信を込めて答えた。カティのチーズに対する自信と愛情、そして、誇りはなにがあろうと揺らぐことはない。
やがて、カティはひとつのチーズを
「フッちゃんさん、フニちゃん、リヴァさん、グリちゃん。四人のおっぱいを混ぜ合わせて作りあげたブレンドチーズです」
ふんぬ! と、胸を張ってカティは告げた。
「四人のおっぱいから世界一のチーズを作る。それが、あたしの夢でした。そのために何度もなんども比率をかえ、試作し、ついにたどり着いた黄金の比率で作りあげた史上最強のチーズです。これを食べれば誰でも納得します。こんなおいしいものがある世界を滅ぼそうだなんて絶対に思わなくなります。そう断言できます」
「ふっ。そこまで言うなら試してみるとしよう」
「……うまい」
たしかにそう言った。
ふんぬ! と、カティはふんぞり返った。
「当たり前です。あたしの愛するチーズ姉妹たちのおっぱいから作ったチーズなんですから!」
「カティ姉ちゃん……」
カティのその言葉に――。
グリフォンがジ~ンとした様子で呟いた。
「ふっ、ふはははははっ! おもしろい。このチーズであればたしかに、神も説得できるやも知れん。いいだろう。神のもとへの道を開くとしよう。見事、神を納得させてみせるがいい!」
完
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