ユニコーンの子供を救え!

 その頃――。

 男は必死に走ってどうにかユニコーンの追撃を振り切ったところだった。

 いくら、ユニコーンの脚力を活かせない森のなかとは言え、人間の身でユニコーンを振り切ったのだ。疲れはてていたし、息も切らしていた。手近の木に片手をついてよりかかり、なんとか息を整える。それでも、もう片方の手ではユニコーンの子供をしっかりと抱いている。

 「み、水……」

 そう呟いたが、目につく限り、水たまりひとつない。もちろん、どこからともなく心優しい少女が現れて水のたっぷりはいった水瓶を差し出してくれる、などと言うことは起きるはずもない。例え、そんな少女がたまたま通りがかったとしても、この男の風貌では怖がってとても近づかないだろう。気付かれないうちに逃げようとするにちがいない。

 仕方なく、男は手近のツル植物を切り取ってしたたる水を飲み干した。青臭くてろくな味ではないし、両もたかが知れている。それでも、どうにか喉の渇きを癒やし、人心地つくことは出来た。

 「ハアハア、クソッ、なんてしつこいユニコーンだ。なんとか森の木を利用して振り切れたようだが……おかげで町とは反対の方向に来ちまった。一刻も早くこの子供を連れて行かなきゃいけないってのに……」

 男がそう呟いたそのときだ。

 「いたあっー! おっぱい、おっぱい……じゃない! 悪人、悪人!」

 天にも届けとばかりに甲高い声が響き渡る。

 「な、なんだ……?」

 男はさすがに驚いて声のした方を見た。デイリーメイドの格好をした若い女性と、胸元とヘソと生足とを大胆に露出した南洋系ギャルという珍妙なふたり組が駆けてくるのが見えた。さらに、その後ろからはいい感じに力の抜けた感じのセクシー美女と愛らしい幼女。そして、狼。

 「な、なんだ、お前たちは⁉」

 「見つけましたよ、この悪人オッサン! そのおっぱいを返しなさい!」

 「な、なに……? なにを言ってるんだ、お前は?」

 「ごまかそうとしても無駄です! そのおっぱいを返しなさい」

 「その台詞回しで理解しろというほが無理なのじゃじゃ」

 カティの叫びに――。

 冷静にツッコむ幼女化フェニックスであった。

 男の目が一点にとまった。普通の狼のサイズになっているフェンリルへと。

 「フェンリルだと⁉ お前等、あのユニコーンの仲間か⁉」

 「ほう。いまのわれを見て一目でフェンリルと見抜くとはな。やはり、相応の鍛練を積んでおるらしい」

 「このユニコーンの子供は渡さんぞ! おれは、この子を一刻も早く町まで連れて行かなくてはならんのだ!」

 男の言葉に――。

 ギャル姿のグリフォンが怒りの叫びをあげた。

 「町まで連れて行くだって⁉ やっぱり、町でその子を売り飛ばすつもりだな、このユニコーンさらい!」

 「な、なに……? なんのことだ?」

 「ごまかすな! その顔を見ればわかる! 見れば見るほど悪人面、絶対ぜったい悪いことしかしないってつらだ。お前のような悪人はこのあたしが退治してやる!」

 その叫びと共に――。

 グリフォンは本来の姿に戻った。鷲の頭と鷲の足、鷲の翼、獅子の胴体に獅子の足、獅子の尻尾をもつ合成魔獣の姿へと。

 男に飛びかかった。いくら、森での動きに慣れており、それなりの鍛練も積んでいるとは言えしょせん、人間。グリフォンに襲われればひとたまりもない。グリフォンの前足、鋭い爪のついた鷲の足が男を襲う。その寸前、男は叫んだ。

 「おれはこの森のレンジャーだ! この子を魔法医の所に連れて行くところなんだ!」

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